第51話ワイバーンとの戦闘 ③

 名刀コテツ


 武器及び防具破壊に特化して名刀は、確かに頑丈なワイバーンの鱗を切り裂き、その肉体にまで届いていた。


 だか───


「浅かったか」とジェルは呟く。

 

 その言葉の正しさを示すよう、ワイバーンは血を流すも、まだ地に落ちる様子はなし。


 空の王者が健全であると見せつけるように────

 

 しかし、この時を狙っていた者がいる。


 ジェルの斬撃。仕留め損なっても、肉を断ち斬るほどの激痛は、


 意識を痛みに――――― 意識をジェルに集中させる。

 

 シズクは、既にワイバーンの頭上を取っていた。


 彼女の飛翔魔法。

 実を言えば、その錬度はジェルよりも高い。


 問題は、彼女の戦闘スタイル――――鎧と盾に加えて大剣を好む彼女の装備はジェルの何倍も重く、速度は万全とは言えなかった。

 

しかし、その経験則は確かにワイバーンよりも有利な位置取りに成功した。


あとは────


「あとは力の限りぶん投げるだけだ!」


 彼女は愛剣をワイバーンへ叩きつける。


「どうせ斬れないなら、その鱗をぶっ叩いて内側にねじ込んでやる!」


 金属と金属がぶつかり合うような打撃音。


 宣言通り、剣を鈍器に代えての打撃を叩き込んでいくシズク。


 どんなに頑丈な鱗と体であれ、打撃の衝撃を無にすることはできない。


 確かなダメージとして、ワイバーンを痛めつけていく。


 だが、


 (おのれ! おのれ! おのれ! おのれ! こんな、こんな野蛮な攻撃で我を!)


 追い込まれたワイバーンはドラゴンよりも狂暴だ。


 僅かな隙を狙い、牙をシズクに向けた。


(取った! その鈍足な動きでこれは避けれぬ!)


 勝利の確信。 確かにシズクの動きでは避けれぬ攻撃。


 しかし、それは――――重装備を外さなかった場合だ。


(――――何ッ! 我の攻撃を避けた? 己の武器を捨てただと!?)


 攻撃の直前、シズクは大剣を地面に投げ捨てていた。


 身軽になったシズクに取って、ワイバーンの噛みつきを避ける事は容易い。


 だが――――


(だが、命を守るために武器を捨てるなど愚策よ!)

 

 更なる攻撃をワイバーンは狙うも、それを嘲笑うかのようにシズクは――――


「ばぁか! 武器はなくても攻撃はできるんだよ! ――――食らえ


 『雷光の槍ライトニングジェベリン』」 

 

 密着状態。 零距離で放たれた雷属性の魔法。


 それは一撃だけではない。 拳で叩き込むように2発目、3発目……


 無論、零距離で放つ魔法の反動も大きい。 叩き込んだ衝撃はシズクの拳にも返っていく。


 肉が焼けるのような音と匂い。 


 その甲斐もあってか? 効果は――――遥かに高い。


 体に直接、電撃を叩き込まれワイバーン。 おそらく麻痺が起きたのだろう。


 その体は膠着していた。そして、シズクと共に地面まで落下――――するかと思えた。


 しかし、墜落の中でシズクが叫ぶ。


「今だ! 撃ち込んでやれ、ジェル!」


「おう!」とその言葉に答えたジェル。彼は既に、火球を――――


 膨大な魔力をつぎ込み、巨大化させた火球の準備を終えていた。そして――――


『ファイアボール』


 短詠唱によって放たれた炎の魔法はワイバーンが地面に落下するタイミングに合わせて発射された。

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