第72話 閑話休題?
もしも――――
もしも、音に色があるとするならば、どす黒い……他者を不快にするであろう漆黒の音が響いているに違いない。
ダンジョンは文字通りの伏魔殿である。
魔物は単純な暴力のみが武器ではない。時折、人が持つ心の闇にも巣づくのだ。
そんな怖い怖い恐怖のダンジョンに似つかわしくない鼻歌が聞こえてくる。
コツコツと自身の存在を示すように規則正しい足音も鼻歌に追随している。
何者か? こんな陽気にもダンジョンを練り歩く者は?
少女だった。
魔法使いだろうか?
顔を隠すように深くマントに付いたフードを被っている。
何より、手には杖を――――その少女の雰囲気には似合わない杖だ。
古めかしい木製の杖。魔法使いと言うよりも魔女が持ってそうな。
我々は彼女の事を知っている。
――――いや、どうだろうか? そう言い切るには難しいかもしれない。
なんせ、我々は彼女の顔を認識できていなかった。 あの時のジェルと同じく――――
あの日、ジェルとシズクが宿で休んでいる時に依頼を持ってきた少女。
冒険者ギルドの受付嬢に変装して、幽霊屋敷で行方不明となった者たちの探索依頼を受けるように促した人物。
彼女は存在していた。 決して、ジェルが想像したかのように超常的な存在などではなく、人間としてダンジョンを歩いている。
まるで我が家を歩くように、油断しきり――――いや、自信なのだろうか? 魔物ごとに自身は傷つけられる事はないという――――
彼女は歩みを止める。
何も変哲もない壁の前。少なくとも、そう見える。
しかし、彼女は手にしている杖をコンコンとノックをするように壁を叩いた。
壁は重量を感じさせる音を上げながら動き始めた。
隠し扉だ。
ダンジョンに隠し扉? 嗚呼、誰が想像できようものか?
魔物が出現する危険地帯に、大がかりな仕掛けを施すなんて……
ましてダンジョンの壁に扉を作り、隠すなんて……
資材や人員は、どれほど必要か?
だが、ダンジョンに潜る冒険者たちすらも知らない抹消された歴史。
かつては、ダンジョンには
今よりも魔物が、ダンジョンが、脅威と考えられていた時代。
人類は、本気でダンジョンを破壊し、魔物を絶滅に追い込もうとしていた時代があったのだ。
ここは――――隠し部屋は、成れの果て。人類敗北の歴史を隠すように忘れ去れた過去の遺産。
ならば、彼女は? 彼女は、どうしてそれを知っている?
そして、隠し部屋の中には――――
「元気そうね。あら、食料には手をつけていないの?」
「……」と無言で武器を構える3人がいた。
「別に良いけど、万全の状態じゃなければ私に勝って、ここから出られないと思うのだけれでも……」
同時に襲い掛かって来る3人の影。
それを、鼻歌混じりに回避する彼女。 自ら攻撃を身を晒す危険性を楽しんでさえいる様子の彼女は、思い出したかのように突然、声を弾ませた。
「あっ! そうそう! 会ってきたわよ」
「……」
「貴方たちの仲間、ジェル・クロウくんに」
「――――なに?」と3人の内、1人が聞き返す。 その人物の名前は――――
レオ・ライオンハート
かつて、ジェル・クロウを自身のパーティから追放した人物だった。
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