第73話 閑話休題 レオたちは――――

 少し話は遡る。


 ここは、とあるダンジョン――――いや、隠すまでもない。


 初心者向けダンジョンであり、最弱の魔物であるゴブリンが跋扈することで有名だ。


 ジェルとシズクが出会った場所。そして、古代魔道具アーティファクト『自動販売機』がある場所だった。


 そこに3人が立っていた。


 自動販売機から購入した武器を手に持った状態で――――


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・ 

 

『剣聖ガチャ』 


 それは剣聖の剣技の完全再現。


『天魔六乱舞』


 常人が1度剣を振る速度で6度斬りつける。 それは、ただ素早く剣を振るだけでは到達できない神技。

 

 速く振るのではなく、あらゆる無駄を省く――――


「どうだった?」と離れた場所で彼女の剣技を見ていた男が感想を求めた。


「……」と彼女は少し考え込む様子を見せてから「……気持ち悪い」と返事をした。


 彼女――――剣士の名前はシオン。


 手にした武器の名前は『妖刀ムラマサ』と『名刀コテツ』――――ジェルが持つ剣と同じ物だった。


 そんなシオンに苦笑しながらも近づく男は、彼女の冒険者仲間であった。


 名前はレオ・ライオンハート。


 そして、その背後で確かめるように剣を振るのは、魔法使いドロシー。


 彼女の手にもシオンと同じ物――――いや、彼女たちだけではない。


 レオ、ドロシー、シオンの3人は、同じ剣を――――『妖刀ムラマサ』と『名刀コテツ』を装備していた。


「魔法使いである私も剣聖……でしたかね? その技を使える」


 ドロシーは、剣を使った戦いの専門家ではない。しかし、冒険者である以上は、剣という基本的な武器の扱いは最低限心得ている。


 しかし、その剣を鞘や戻す動作は、一端の剣豪を彷彿させるほど手慣れて見えた。


「本職であるシオンにとっては剣に操られている感じがして気持ち悪いってことよね?」


「うむ」とシオンはコクリと頷いた。


「まともに剣を振るった事がない私ですら剣聖になれる……あのジェル・クロウが突然強くなったのも納得できるわね」


 ドロシーから発せられた名前……シオンとレオは顔は顰めるが、それに彼女は気づいているのだろうか?


 人の肉体ではなく、人の精神を斬り、傷つける『妖刀ムラマサ』


 『妖刀ムラマサ』の影響下にあるレオとシオンは精神に変調を起こしている。


 その原因となるジェルの名前を聞くだけで錯乱や発狂を起こしかねない。


 2人がジェルへ持つ感情を正直に言えばは――――


(もう二度とジェルとは関わり合いになりたくない) 


 しかし、『妖刀ムラマサ』に斬られていないドロシーには、その感情はない。


 むしろ、魔法使い――――魔法の専門家として古代魔道具に強い関心を持っていた。


 彼女は――――


(レオとシオンには悪いと思うけど、私には魔道の追求が大切……そのために、心が折れている2人をジェルにけしかけることだってやるわ)


 仲間としての関係性は破綻していた。


 いや、そもそも成立していたのはジェルという悪意を受ける存在がいたため……


 近隣で最上位の冒険者となった レオ


 天井知らずの矜持を有する女剣士 シオン


 魔道追求のみを目標とする魔法使い ドロシー 

 

 彼らは、どこまでも――――


「失礼します」

 

 そんな彼らに突然、声をかける人物がいた。


「あら、ここを……古代魔道具を発見された方が3人も……これはこれは残念です」


 

 

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