第121話 あれから5年

 ――――あれから5年後――――


 冒険者は息を殺して進む。 


 死の森と言われる場所。


 緑色の装備を土で汚した冒険者の姿。 森と一体となり、肉眼では限りなくとらえられない。


 しかし――――


(……妙だな。魔物と遭遇しない)


 死の森と呼ばれているのは伊達ではない。


 危険な魔物の出現ポイント。 


 冒険者ギルドから認められた者だけが、現地調査――――奥地にある城を調査をする依頼を行える。

 

 幾多の冒険者たちが城まで到達できずに引き返してる。


 それでも、依頼達成とされるのは難易度の高さ。


 だから、だろうか? 彼――――この冒険者の青年にも欲がでた。


 (もう少し先に、城まで行けるか?)


 地図……とも言えない完成度の低い地図で位置を確認した。


 前に一歩、踏み出した直後に、


「なんだ、アイツではないのか。どうやら……ただの冒険者か」


 声。それも背後から聞こえて来た。前ぶりも、気配もなく……


 冒険者は逃げるように距離を取る。 そして、その人物を確認するために振り返った。


 声の主は、黒衣を身に纏っている。 武器、腰にぶら下がっている剣は3本。


 どこか不吉な、そんな空気を身に付けた男だった。


「――――ッ! まさか、魔族か?」


 冒険者は腰に帯びた剣に手をかける。 しかし、鞘から剣を抜かない。


(――――抜けば殺される。それほどの戦力差。逃走に専念するには……)


 対峙しただけでわかる実力差。 


 逃げるための方法? 脳内には幾つもの選択肢が浮かび消えていく。 


 そんな冒険者に対して、男は――――


「見事だ。良い腕だね」


 そんな場違いな誉め言葉を口にした。


「え? 何……を、言って?」


「俺と対峙しておきながら、生き延びるために考えを巡らせている」


それから不気味なほどに笑顔で「うんうん、冒険者とはそうでないと」と1人、頷いている。  


(油断しきっている……逃走するなら、ここ!)


 そう決めてからの行動は早かった。


 冒険者は地面に何かを叩きつける。 瞬時に眩い光が周囲に覆った。


 強敵に遭遇した時のために準備していた目潰しの道具。


 そのまま全力で逃走を――――できなかった。


「逃がさないさ。久々に話せる人間だからね」


 背後から首を掴まれ浴びせ倒された冒険者。


(う、動けない。軽く、押さえられているだけなのに!)


「そう急がないでくれよ。そうだ……自己紹介がまだだったね。俺の名前は――――ジェル。ジェル・クロウだ」


「ジェル……ジェル・クロウ! 魔王ジェルか!」


「あぁ、世間じゃそう呼ばれているらしいね」


 そう言って笑う彼の顔には狂気が隠されていた。

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