第120話 魔王ジェルの誕生 第一部完

 勇者の聖剣。


 突き抜かれたレオ・ライオンハートの肉体――――果たして、その効果は?


「なんだこれは? 剣が俺の中に入って行く――――やめろ! やめろ、ジェル・クロウ!」


 レオからは叫び声。 死を前に恐怖しなかった男が震えている。


 一体……一体、彼は何に怯えているのか?


「わかる。わかるぞ……勇者という存在が俺にもわかってきた。 あぁ、頭がおかしくなりそうだ……いや、おかしくなっている。俺の人格が勇者に塗りつぶされていく。俺が……俺は……誰? いや、俺は――――レオ・ライオンハートだ!」


 その叫びは、まるで断末魔ように閉ざされた空間に響き、彼は、レオは意識を失った。


「成ったか」とジェル。彼は再び、自動販売機に向かい次の商品を選択した。



 それは『勇者の聖剣』と同額の商品。 『勇者の聖剣』と対になる存在――――


『魔王の魔剣』


 これをジェルが持つ事で、勇者が倒すべき存在――――『魔王』を襲名したのだ。


「すまない。これで2000万Gを――――」


「使いすぎだ!」


 パコっと音がする。 離れて見ていたシズクがいつの間にか近づいて、ジェルの頭を軽く叩いたのだ。


「最初の計画じゃ、不死鳥フェニックスを『魔族ガチャ』で魔族にして、あまり金額で豪遊するじゃなかったのかよ? 2000万Gなんて言ってら、吸血鬼退治とかワイバーンの大量駆除で稼いだ金額のほとんどが……」


 シズクの声を遮るように横から――――


「ほれ、これを使え」と金貨が入っている袋を渡された。


 その人物はドワーフのトムだった。


「ん……いや、いくら私でも、この金額はホイホイと貰っていいもんじゃないってわかるぜ?」


「気にするな。冒険者に宿を貸して稼いだ金だ……それに、ここら辺で生きるのに、金は要らぬからな」 


「でも……」と、どうやって断ろうかと考えていたジェルたちだったが、トムはこう続ける。


「できたら、ワシも仲間に入れてほしい」


 ジェルとシズクは、思わず顔を見合わせる。


「ワシには仲間がいなかった。このまま、勝手に古代魔道具を守るのが使命だと思い込んで、長い寿命を費やすつもりじゃった」


「でも、それは違っていたと?」


「うむ……ワシと同じ魔物から人の形に――――魔族になった者が他にもたくさんいるならば、ワシが魔族になった事にも意味があるじゃろ……ワシはそれを――――この古代魔道具の秘密を追求していきたい」


「……ジェル」とシズク。彼女は、ジェルに同意を求めるようだった。


「うん、それじゃ金貨を使わせてもらうよ。それと――――」


 ジェルは腰に付けたランタンを叩く。 すると――――


 號――――と轟音。 ランタンが赤い炎の光を外部に漏らしたかと思った次の瞬間に――――


 炎で体が構成された鳥が出現した。


「話は聞かせてもらったが……これが古代魔道具か?」


 不死鳥フェニックスは自動販売機を一瞥する。


『いらっしゃいませ!』と自動販売機は声を返すだけ。


「知性があるように見えて、見せかけか? いや……しかし、これは――――面白い」


「何かわかるか、不死鳥?」


「いや、わからぬ! この俺とて、新しく生ませて不死鳥! 無知ゆえにわからぬゆえに、面白い! 早く金を払わぬか!」


「――――はいはい」とジェルは金貨を投下した。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


 ここでジェルたちの冒険は、1つの終結を向かえた。


 そして、新しい物語がここから始める。


 魔王の魔剣を得たジェル・クロウ。

 

 勇者の力を得たレオ・ライオンハート。


『魔王』と成ったジェル。


『勇者』と成ったレオ。


 両者の戦い。


 とある理由により、ジェルが膨大な力と領土を有す。


 それは『国』 魔界と言われる新興国。


 暴力的に領土を広げる魔王に対して、人類は勇者レオに希望の光を見る。


 嗚呼、なぜジェルが暴虐の王となったのか? それは1人の少女の死にある。


 平凡な日。 1人で街に出かけた少女は――――シズクは死ぬ。


 嗚呼、馬車に轢かれそうになった少女を庇った彼女は、ゴブリンたる正体を現し――――


 人間の怨嗟と呪詛をその身に浴びて――――


 だから彼は――――ジェル・クロウは人を止め、魔王として生きる。


 ―――――彼女を甦らすために



 しかし、それは――――まだ先の話。


 第一部 完 


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