第119話 最高金額 勇者の聖剣
「ようやく……お前の手で殺される時がきたな」とレオ。
言葉には異音が混じっていた。まるで音の鳴らない笛のようにスカスカの音色……
呼吸器官である肺を自ら穴を開けたためだ。
既に致命傷…… 液体である血液が肺を満たしている。
「俺たち冒険者は麻痺しているんだ。魔物を殺して、魔族を殺して、人を殺して……お前が、ジェル……お前が俺たちは羨ましかったのかもしれない」
レオは笑う。まるで自分が言った悪趣味なジョークが予想より面白かったかのように彼は笑った。
「……」とジェルは、それを黙って聞く。
「簡単になっちまったんだ。何かから命を奪うのが……お前は、そうなるなよ……今更、俺が言った所でお前には……もう響かないかな?」
乱れた呼吸と共に言葉も発するのが乱れていく。
「できれば……トドメを刺してくれ。 もう……呼吸をしているだけで辛いんだ」
その言葉にジェルは頷く。しかし、彼は倒れているレオに背を向けて歩く。
向かうのは古代魔道具『自動販売機』――――そこに金貨を投入した。
『いらっしゃいませ! 商品をお選びください』
「……」と無言で操作をするジェル。 すると――――
「……おい」とレオの声。 彼の体は光に包まれていた。
「古代魔道具の治癒魔法に金を使ったか……無駄だ。怪我は治せても、外因で機能を失った器官を回復はできない。 回復魔法では、肺に溜まった血を取り除けない……」
レオは呆れたように言う。
「……そうか」とジェルは声には力がなかった。
「それじゃ、本当にこうするしかないのか」
ジェルは、再び自動販売機を操作する。先ほどとは違い、大量の金貨を投入して―――――
『ありがとうございました』と自動販売機から音声。
それと共に商品の取口には、見慣れぬ物体がのぞいていた。
ジェルがそれを取り出す。
それは――――異形。
白い剣。 刀身が白いのではない。
通常の刃から、薄っすらと白い何かが立ち昇っている。
それを手にしたジェルは、レオに剣先を向けた。
「――――聖剣の部類か。 俺を殺すには、聖なる力は相応しいか?」
「これは、この商品名は『勇者の聖剣』だ」
『勇者の聖剣』
――――かつて、ジェルが古代魔道具『自動販売機』を発見した時、確かめた最高金額 1000万Gの商品。
「勇者の……? なんだ、その勇者ってのは?」
「俺も聞いた事もなかった。だが、今ならわかる……勇者っては、魔王って存在と対になる存在」
『勇者』と『魔王』
この世界には存在しない単語にレオは混乱する。 それほどに――――
「そして――――」とジェルは倒れているレオに近づく。
剣先を下に――――その刃を振り下ろした。
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