第118話 死の戦い 決着の一撃

 短期決戦。


 それは最初から決まっている。


 自ら左胸を突いたレオ。 呼吸器官である肺に傷をつけたのだ。


 本来ならば戦闘を行えるコンディションではない。 それでも――――


 だから、短期決戦。


 レオは考える、必勝法を。 


(おそらく、ジェルは古代魔道具を使用してこない。そこまで強い殺意を纏っていない)


 彼の予想は正しかった。 


(これは決闘。……だからと言って、傷つき、死に近づくレオに対して古代魔道具を振る……それでいいのか? 本当に、それでいいのか?)


 ジェルは自ら問いかける。 


(単純に外部から力を使ってレオを叩き潰す……それも正しいはず。だが、それをやって俺もレオも納得するのか?)


 『古代魔道具』


 それは純粋なジェルの力ではなく、手に入れた道具によってもたらされた力。


 最後に決闘において、ジェルはそれを使わないことを決断した。


 古代魔道具を使わない真っ向勝負。


 しかし、それではジェルがレオに勝てる要素は皆無ではないか?


 だが、レオは手負い。 それがジェルの判断を狂わせる。


 間違っても古代魔道具を使用しない……ならばジェルは強者ではない―――――弱者だ。


 だから、当たり前のように――――


「行くぞ!」とジェル。


「来い!」とレオ。


 互いに叫び、走り出す。


 魔物と力比べで競り勝つほどの超前衛戦士のレオ。 鍛え上げられた肉体から放たれる打撃は壁を貫き、弱い魔物なら即死させる。


 その剛拳がジェルに向かい放たれる。


 避けなければ死……それほどのジェルとレオの戦闘力の差。


 そのはずではなかったのか? なんと、ジェルはレオの拳を受け止めた。


 彼が経験した激戦の日々。 体を酷使する事が日常になったジェルの肉体は――――かつての彼とは別人のように――――戦闘能力は跳ね上がっていた。


 だが、レオは――――


(見事だ。短時間で俺に迫るほどの肉体強化。どれほどの地獄を経験したのか……それは、お前の体から伝わってくる。だが――――お前なら、俺の拳を受け止めれると信じていた!)


 レオが放ったのは――――彼の本命は――――


 蹴り。


 無防備になったジェルの胴に脚を――――叩き込んだ。


(確かな手ごたえ――――だが、ジェルよ。これも受けるのか!)


 ギリギリで間に合ったジェルの受け。 受けたジェルの腕からは甲高い音――――腕の骨が折れた音だ。 


 それほどまでのレオの豪脚。巨大なミノタウロスですら、絶命しかねない威力。


 かつてのジェルなら、容易に吹き飛ばされていただろう。


 だが、今のジェルは腕を犠牲にしながらも、しっかりと地面に立ち――――それどころか反撃に動いていた。


 破壊されていない腕。 その腕をレオに叩き込む。


 ジェルの拳を受けたレオ。だが、それで止まる彼ではなかった。


(よくぞ! よくぞ、その状態で反撃を! 俺の屍を前に誇っていいぞ! だが、最後まで立っているのは、この俺だ!)

 

 レオの剛脚が動く。


(その腕、もう防御はできないだろ。今度こそ、俺に蹴られて吹き飛べ!) 


 本日、二発目のそれがジェルに向かって―――――


 しかし、それは不発に終わった。 なぜなら――――


 ジェルの腕。 


 蹴りを受けて壊されたはずの腕を動かし――――


(腕を、折れたはずの腕ですら、無理やり武器にして……)


 レオの顔面に叩き込んだ。


 巨体が――――巨大なレオの肉体が地面に向かって倒れていく。


 意識はあっても、もう体が動かない。


 加えて、死に向かっていくレオのタイムリミットは、戦闘を継続する余裕は許されていなかった。


  

  

    

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