第117話 レオの自死

「……レオ、信じられないかもしれないけど、君の仲間は生きている。 シオンもドロシーも……今はあのアスリンのナイフ『生と死のナイフ』の効果を無効化するために治療を受けている」


「……それがどうした?」


「俺と君は、もう戦う理由はない。そうだろ、レオ?」


「――――違うだろ、ジェル?」


「えっ?」


「戦うとか、戦わないとか……それを決めるのはお前じゃない」


「でも、戦う理由を決めるのはレオでもないだろ?」


「いや、俺たちが戦う理由なんて――――無限に作れるさ」


「それは、戦わない理由だって同じはずだ」


「だったら、戦おう――――いや、殺し合うぜ?」


「やらないよ。だったら俺は逃げる」


「――――」とレオは無言になった。 しかし、殺意……それが膨れ上がっているのが分かる。


 レオは武器を手にした。ジェルは警戒心を強めるも彼が手にした武器はナイフだった。


 一瞬、アスリンのナイフを連想したジェルだったが、まるで違う。


 どこの道具屋でも売っている平凡なナイフ――――しかし、戦いとか、殺し合いとか、物騒な言葉が飛び交っているこの場には似合わない。 そんな普通のナイフだった。


「それで、戦うつもりなのかい?」


 ジェルはレオの考えがわからなかった。 


(ナイフ1本で武装した自分と戦う――――いや、レオならやりかねない)


 そんな気持ちもあった。だが、レオはナイフを逆手に持ち帰ると――――


「これはこうやって使うのさ」


 一気に、自分の左胸に突き刺した。


「――――っ!?」と驚きのあまり絶句するジェル。 思わず、レオからの殺気すら忘れて駆け寄ろうとする。 だが――――


「近寄るな」とレオは拒絶した。


「なんのつもりだ――――自分の最後を俺に見せるつもりだったのか?」


「まさか……いや、まさかだろ?」とレオ。彼は弱々しく呟く……だが、逆に殺気、あるいは闘気と言われるものが、さらに莫大な量になっている事にジェルは気づいた。


「今、俺は……」とレオは言葉を続ける。


「左胸……肺に穴を開けた。小さな穴だ……だが、いずれ肺は血に満たされ、俺は死ぬ」


「――――ッ! なんのために……」


「これでも、これでもお前は俺と戦わないと言うのか!」


 レオはこう言っているのだ。 俺は、どうせ死ぬ。 だから、最後に戦ってくれと――――


「なぜ……なぜ、そこまでして俺と戦いたい?」


「さぁ……後悔しているかもしれない。お前と袂を分かれた事……だから、俺はお前に殺されたがっている」


「そうか」とジェルは覚悟を決めたように呟く。


 既にシズクとトムは下がっていた。 まるで最初から戦う事がわかっていたかのように――――


 そして、それは正しかった。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る