第82話 不死鳥フェニックス

 不死鳥フェニックスは顕現した。


 狭い馬車の中でありながら―――― 布でできた幌に触れぬように身を縮めるように顕現した。


 「わかるか、なぜ我が不機嫌であるかを?」


 彼は、この旅が始まってから機嫌が悪かった。 その理由は――――


「ん~ わかったぜ、目的が北国だからかだろ?」とシズクはふざけた感じ。


 しかし「うむ」と少し考える様子で不死鳥は


「それもある」と答える。


「……寒いから機嫌が悪いのか」とジェルの声に若干だが、呆れが混じる。


「愚かな事を言うでない。北国は、そこら辺に雪が積もっている。 水に囲まれているようなもの」 


「あぁ、水に弱そうだもんな。体が炎だから……」


「加えて、元々の我はワイバーンの体。精神的にも寒さに弱い……だが、それだけではない」


「――――」とジェルは無言で、真摯に考えてから答えを出す。


「魔族ガチャか?」


「その通りだ。魔物を謎の存在である魔族に作り替える古代の魔道具――――それを魔物の王である我が使う。……その意味を貴様らは、本気で考えてから行動に移したのか?」


「待てよ。それは私に――――」と言いかけるシズクの言葉をジェルは止めた。


「不死鳥……お前はシズクの事をどう思っている?」


 ジェルの言葉に「彼女か」とシズクを一瞥しながら、不死鳥は


「正直、我は貴様らの事を人間の二人組だと思った。人間の身でありながら、強者である魔物の挑む――――その姿は勇者として憧憬すら感じさせる」


「だが、シズクは――――」


「あぁ、ゴブリンだ。 弱者の象徴たる魔物が汝の正体」


「――――」と無言のシズクは、何を感じているのか? だが、不死鳥は、


「人よりもさらに、弱者でありながら強者に昇格した者。――――はっきり言えば、強者へ挑戦する者を種族なんぞ関係なくに我は祝福しよう」


「それじゃ、お前にとって――――大切なの事は種族ではなく、強者として――――あるいは強者になろうとする精神って事だろ?」


「……なるほど、一理ある。しかし、種族を捨てさせ、我を挑戦者にする価値が本当にあると言うか? 我が俗世に潜むのに不向きな体をしているからではないのか?」


「後者の質問は否定しきれないよ。だって、事実として人目に見られるわけにはいかないからね」


「そう――――で、あるか」


「けど、前者としては――――まぁ、あるんじゃないかな?」


「断言はできぬのか?」


「そりゃ、俺だって人間を止めろって言われたら悩むからね。けど――――」


「けど、なんだ? 続けてみよ」


「強くなれるなら、俺は人間を捨てるかもしれない」


「ほう、面白い……ならば、受けても良かろう『魔族ガチャ』とやらを」


「本当にいいのか?」


「ここまで引っ張り出しておきながら、何を今さら驚く事が? だが――――」


「だが? なに?」


「見届けさせてもらおう、最後まで。本当に人を捨ててでも強さを選ぶのか? その精神は、何が由来しているのか……を」



  


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