第46話 シズクの目標

 それは純粋な疑問だった。 


 その言葉に悪意はない。あるはずもない。


「君は……巨大な力を得て何がしたいんだ?」 


 だが、そこ言葉を発した後、ジェルから湧き出たものは後悔だった。


 空気がヒリつく。


 シズクが纏った感情は怒気……いや、違う。


 怒気を間違うほどに圧倒的な熱量――――より正確には熱意だった。


「私の目的は――――」と言いかけて彼女は視線を空に向ける。


「一言で説明するのは難しい。けど、強いていうならば私を増やすって事だな」


「シズクを増やす? それは種の繁栄って意味かい?」


 ジェルは聞き返しながらも、納得していた。


 種の繁栄。それは生物が持つ本能だ。


 増して、シズクのような特別怪物エクストラモンスター……


(今となってみれば、とても怪物として認識できなくなっているシズクに、その言葉を当てはめる事に違和感があるのだけれども……)


 そう思いながら……しかし、そのジェルの考えをシズクは否定した。


「違う、そうじゃないのさ」


「え?」


「種の繁栄じゃない。なんて言うか仲間かな? あの古代魔道具アーティファクトみたいな物が存在している以上。同胞……みたいな連中がたくさん隠れているに違いないだろ?」


「あぁ、そうだな。君みたいな連中がたくさんいるなら、人間と魔物も仲良くできるかもしれないな」


「――――」とシズクは目を大きく見開いて驚いていた。それから……


「私は、憧れていたのかもしれないな。人間の仲間ってやつに」


「仲間……」とジェルは悲しそうに微笑んだ。その言葉は、ジェルに取って重い。


「だからかもしれない。あの日、仲間から傷つけられて、置き去りにされたお前を見た瞬間。私は怒った。それから――――お前の仲間になりたいって思った」


「――――っ!?」と今度は、ジェルが驚かされる番だった。


(何か言わなければ)


 ジェルの考えとは裏腹に出てくるのは「――――」と言葉にできない音だけだった。


 そんなジェルをニヤニヤと笑いながらシズクは、


 「さぁて、そろそろ目標が見えて来たぜ。殲滅戦だ、準備はOKか?」


 彼女は空を指す。旋回するワイバーンの群れ。


 周辺は薄暗い。


 なぜなら、空を飛ぶワイバーンたちの影が太陽の光を覆い隠すからだ。


 ワイバーンたちの羽に隠され、隙間から極僅かに空の青が見えている。


 要するに――――


「滅茶苦茶だ」とジェル。


「見た事もない数のワイバーン……本当にやれるのか?」


「やれるさ」とシズクは笑って返す。


「私とお前……2人なら、このくらい余裕って感じだろ?」


「あぁ、分かったよ」とジェル。彼は肩にかけた雑嚢に手を入れる。


 中から取り出したのは本だった。


 一冊の本。当然、ただの本のはずもなく――――


『雷撃上昇の魔導書』


 それは、ジェルが迷宮深くで古代魔道具アーティファクトから手にした魔導書。


(剣聖ガチャのハズレではあるけれど……使うなら今がベスト)


 ジェルが本を開く。 黄色い光が中から飛びだして彼の体を覆い始めた。


 その光は雷撃の魔力。 魔導書に書かれた文字は、魔法発動時の詠唱と同等の効果を発揮させる。 

   

「行くぜジェル! その魔力を私に寄越せ!」


 まず、最初にシズクが発動した魔法は『フライト』


 ジェルも習得している飛翔魔法を使用して、天空を舞うワイバーンの位置まで飛翔していく。


 

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