第98話 奇襲の狂戦士 シオン

 経験豊かなはずの上位冒険者たち。 


 しかし――――


 本来なら感知できるはずの殺意や悪意はなし。


 遠距離から移動しながら狙撃。


 その一撃、一撃が異常に高い殺傷能力を有していた。


 彼らは知らない。 知る余地もない。


 敵の正体は、ケンタウロスのセツナ。


 ダンジョンの険しく切り立った斜面を疾走できる登坂能力を有する四足獣。

 

 武器は古代魔道具――――狙撃銃。


 距離にして数百メートルの射撃が可能。 だが、激しく上下に移動しながらの精密射撃は不可能に近い。 何か秘密があるのかもしれない。


 銃とは殺傷性に特化した武器。


 ここで冒険者たちの失敗は、魔物と対峙する時と同じように盾を構えた前衛職が魔法などを得意をする後衛職を庇うように陣形を取った事だ。


「――――ッ! なんだ、この攻撃は! 盾に穴が」


 魔物の猛攻に耐えきれるはずの上位冒険者たちの上等な盾。 それが容易に貫通され、持ち主が後方に弾き飛ばされる。


 もしも、重圧な鎧を装備していなければ即死を免れなかっただろう。


 獣が有す銃という未知の敵。 一方的な獲物になると思われた冒険者たちであったが――――


 忘れてはならない。彼等は、この世界で最強の戦闘集団だ。


 もう、この状況に適応を開始していた。


「陣形の変更を! 私たち魔法使いが前に――――出る!」 


 前衛の防具を撃ち抜く攻撃。 


 後衛で観察していた魔法使いたちは、攻撃の性質を理解する。


「後衛は、魔法防御壁を前に! 仲間たちを守って、散開!」


 弾丸は魔法的な神秘性は皆無。 ただ、純粋に鉄を高速で撃ち込んできている。ならば―――― 


「だったら、ただ速くて強いだけの剣の突きと同じこと。魔法の防御壁で衝撃そのものを封じてやれば恐れるに足りません!」


 そんな、戦い。 銃を操るケンタウロスのセツナと上位冒険者たちの戦い。


 そんな激戦だからこそ気づく者はいない。


 セツナは誘導。 本当の目的は――――冒険者たちを散開させること。


 だから、気づかない。 先ほどまで、誰も見た事のない冒険者パーティたちが増えていても――――


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


 ジェルたちは、遮蔽物に身を隠しながら戦いを見ていた。


 自分たちが、この惨劇を巻き起こした責任の一端を担っている事実。 


 それをどう考えるべきか? 脳の処理が追い付ていない。


 だから――――そこを狙われた。


「……」と無言で誰かが走り込んでくる。


 魔法使いたちの防御壁に入りきれなかった者が、自分たちのいる遮蔽物に入ろうとしている。


 ジェルは、最初そう思った。


 なぜなら、その人物――――黒い衣服に身を包んでいる人物が――――かつての仲間だった女侍 シオンだと想像する事は不可能だからだ。 


 ジェルが反応できたのは、その人物――――シオンが尋常ではない殺意をばら撒きながら――――


「行くぞジェル! 剣聖セット『妖刀ムラマサ』と『名刀コテツ』……今、必殺の――――


 『土龍激突』


 シオンが放った突きは、ジェルたちの潜む遮蔽物を一撃で粉砕してみせた。

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