第101話 裏切りのアスリン
「くっ! 下がれドロシー」とレオが叫ぶ。
その隙にシズクが動いた。 シオンに向かって走る。
それを止めようとするレオだったが――――
『ファイアボール』
天井からの魔法攻撃。 地上に降りていくジェルに遮られた。
「どうやら、形勢は逆転したみたいだな」とジェルは呟いた。
(おそらく、レオたちの作戦は――――)
ジェルにはシオンをぶつける。
持つ武器は同質の物……ならば、純粋な剣技勝負になる。
技は同じでも、スピードとパワーはシオンはジェルよりも勝っている。
それで負けはない。 注意すべきはシズクである。
シズクが持つ魔剣。
接近戦において、距離も、タイミングも無視してカウンターを放つ魔剣だ。
シオンの天敵――――いや、剣を主武器とする者にとって天敵と言える存在だ。
ならば、レオとドロシーの2人で足止めをする。
距離も、タイミングも無視した剣技? だが、魔法使いには無関係だ。
いつも通り、
(先ほどの戦い――――俺とシズクが、
そう結論付けて、ジェルはレオと対峙する。
――――違和感。
(レオの唇が動いている。 何か話しているが――――まさか、4人目がいる?)
ジェルの直感は正しかった。 彼が倒れていたはずのドロシーに視線を向けると、彼女の姿は消えていた。
「――――ッ!(気配もなく、ドロシーを救出した人物がいる?)」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
少し前――――ケンタウロスのセツナは、上級冒険者たちの足止めをするため、崖のような足場を駆けながら狙撃をしていた。
「――――右、もう少し右。 そう……撃て」
小さな声。
セツナの狙撃を指示している黄金のアスリンは、姿を隠すのを止めていた。
彼女は、上級冒険者たちに紛れていたのだ。
狙撃で狙われる側の位置に移動。そこで正確な狙撃ポイントを指示している。
だが――――
「……聞こえているか? アスリン、返事をくれ」
魔道具からの通信。 レオの声が耳元に届く。
「チッ!」と彼女は舌打ちをした。
(今、良い所なのに! 上位冒険者たちを安全に殺せる機会なんて、滅多にないわ。……作戦は事前に決めておいた通りに進めれば、負けはないでしょ?)
連絡を無視する選択肢も浮かんでいた。しかし、優先すべきは殺戮の快楽ではない。
優先すべきは――――
古代魔道具とその持ち主の排除。
「仕方がないわね」と回線を繋ぎ、レオからの通信を受けた。
「アスリンか? 今、ドロシーがやられた。背中を魔法の刃で刺されている。救援を――――」
「わかった、すぐに向かうわ」と通話を終わらせた。
「やっぱり、B級冒険者を利用するだけじゃダメだったかしら……そうねぇ。そろそろ、彼等も本当の仲間にしてみましょうね」
そう言って彼女は笑う。 それは邪悪な笑みだった。
彼女は黒装束を纏う。 それはシオンが着ている物と同じ古代魔道具。
気配遮断の効果がある服だ。それを利用して、レオたちの元に行き――――
「仕方がないわね」と倒れているドロシーを引っ張って移動させる。
「……意識はあるみたいね。ほら、飲みなさい。回復薬よ……あとは止血と体力を回復させる薬ね」
「ありがとう。少しだけ休んだら大丈夫。すぐに戦線に復帰するわ」
そのドロシーの言葉にアスリンは首を横に振った。
「大丈夫、私はまだ戦えるわ。私は後衛……最悪、魔法さえ使えれれば……」
「いいえ、そんな意味じゃないわ」
「え?」とドロシーは、自分が何をされたのかわからなかった。
「もうお眠りなさい」とアスリンは、ドロシーにナイフを突き立てていた。
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