第100話 ジェルの一手
「吐血は、自ら舌を噛んだか?」
シオンは地面から、ダンジョンの天井に留まるジェルを見上げていた。
「叩きつけるには十分過ぎる力を込めた。だが、天井付近で飛行魔法を使用して、叩きつけられたふり……器用だな。背中から攻撃魔法を放って、天井に体がめり込んで見えるように偽装したわけだな」
チラリと視線を壁を見る。 ほぼ、垂直と言える壁ではあったが、シオンの脚力を有すれば天井まで壁走りで昇っていける。
「さて……どうするべきか?」とシオンに思考する。
(ジェルの狙いは――――単純。ダメージで動けぬと擬態で、こちらを空中戦に誘っている。流石に飛行魔法の持ち主と空中戦は無謀か?)
シオンの読みは正しかった。 作戦が読まれたジェルは――――
「やれやれ……狂戦士みたいな戦い方に変わっても、罠には騙されてくれないのか」
狙っていたのは、とっておきのカウンター。 それが不発に終わり、次の手を考えながらシオン以外――――戦況を天井から観察する。
(あのケンタウロスの少女……遠距離射撃に上級冒険者たちは手間取っている。何より、俺が天井まで打ち上げられている異常事態に気づいていないのは、シオンの黒装束――――たぶん、古代魔道具なんだろうけど、その効果だろうか?)
そこまで考えて、ジェルはシズクを探す。
すぐ見つかるも、その光景に「……」とジェルは、無言で思考を加速させる。
シズクは戦っていた。相手は2人――――レオとドロシーのコンビだった。
(なるほど、シズクが持つ『カウンターの魔剣』は侍であるシオンの天敵みたいなもの。だから、2人で魔法を主力にして倒すことを優先したのか――――それじゃ、今の状況はミスだ!)
ジェルは、魔力を集中する。 狙いはドロシーだ。
それに気づいたシオンが邪魔をしようと壁を駆けあがってくる。
シオンの速度は早い。だが、ジェルの魔法攻撃を阻止するには遅かった。
『ファイアボール』
それは初歩的攻撃魔法である。しかし――――
ジェルが放つソレは一流の魔法使いでも放つ事が難しい巨大で膨大な破壊力を秘めた火球であった。
「私を狙う事はわかってた!」とすぐさまドロシーも反応。
『ファイアボール』と同じ技――――同じ魔法を放つ。
それはかつて、ジェルが知ってる彼女の魔法とは違い、古代魔道具によって強化された巨大な火球。
迫り来るジェルの火球を相殺しても余りある威力を残してジェルへ――――
「でも、甘い」とジェルは、――――『ホワイトエッジ』
ドスッと異音。 それはドロシーの背中から聞こえた。
彼女は見えただろうか? 白い氷の刃が自身の背中に生えている光景を――――
ジェルが魔法勝負で本職のドロシーよりも勝っているとしたら、魔法の発動速度。
そして、基礎を学んでいないからこそ、柔軟な発想――――ジェルは『ファイアボール』と放つと魔法の火球を目くらましに氷の刃『ホワイトエッジ』を続けて放っていた。
『ホワイトエッジ』は直線的な軌道ではなく、ジェルの魔力にコントロールされて、大きく迂回。ドロシーに気づかれる事無く、彼女の背中に突き刺す事に成功したのだ。
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