第102話 ドロシーの死

「な……なぜ? どうして私が……」


 ドロシーの目は驚愕に膨らんでいる。そんな彼女の様子をアスリンは冷酷に笑う。


「ごめんなさいね。だって、貴方は……3人の中で一番――――」


「え?」


 ドロシーは思わず聞き返す。 それほどまでにアスリンの言葉を不可解で、理解ができな言葉だったからだ。


「あら、聞こえなかったのかしら? もう一度言うわね。貴方を殺す理由は、3人の中で一番……正常だったからよ?」


「――――っ!」


 やはりドロシーには理解できない言葉。 


「貴方は、貴方だけは古代魔道具に精神が汚染されていない。狂気を注入されていないわ」


 ドロシーには心当たりがあった。


 レオとシオンはジェルとの戦いの後、精神に異常を灯している。


 もっとも、それはジェルが持つ『妖刀ムラマサ』による後遺症であるが――――


「……」と無言となったドロシー。


 それをアスリンは、どう思ったのか? 彼女は話を続ける。


「それどころか、隙があれば古代魔道具の情報を『大学アカデミ』に送ろうとしているわね。仲間を裏切ってでも―――ね?」


「それは、私は――――」


「言わなくてもいいわよ。 もう、今更……何を言っても手遅れ。私は貴方を殺す事を決定したから」


「それでも、私は!」とドロシーの絶叫。 全身に魔力を循環させる。


 疑似的な回復魔法。大量の魔力を消費する事になるが呪文を唱えるよりも回復は早い。


 早いのは、魔力による回復だけではなく、攻撃魔法も――――


「無詠唱魔法ですか? さすがB級冒険者の切り札ですね。いざとなれば1人でも戦える力を隠して――――でも、私はこう言いましたよね? 手遅れと!」


アスリンの声。 それに合わせて、ドロシーは自身の魔力がブレるような感覚に襲われる。


 ――――その直後だ。


「がっ! がはっ!」と吐血。 大量の血液がドロシーの口からばら撒かれた。


「か、回復魔法がうまくいっていない? これは――――毒?」


「毒じゃないわよ。私の古代魔道具は『生死のナイフ』って名前」


「まさか、即死効果と同じで――――」


「あら……やはり、ここで殺しておくのが正解だったかしら。そこまで古代魔道具の研究を隠れてやってたわけね」


 彼女が、アスリンは再び冷酷な笑みを見せる。


「このナイフで刺した者は、その時点で死が確定している。そして私の能力――――『死霊魔術師ネクロマンサー』を強化して――――」


「くたばれ! この――――」とドロシーは最後まで言えなかった。


 なぜなら、アスリンを守るように離れた場所から正確に、ケンタウロスの彼女――――セツナが銃による狙撃を成功させたからだ。


 額を撃ち抜かれ、地面に衝突するかのような勢いで倒れたドロシーだったが――――


「立ちなさい、ドロシー」とアスリンが命じると、素早く立ち上がった。


 その表情には――――いや、もはや彼女の顔から表情をいう物が抜け落ちたかのようだ。


 それは、ケンタウロスのセツナと同じように見えた。


 そんな彼女、ドロシーの様子を確認したアスリンは――――


「これで、まずは1人。 次はシオンを狙いましょうか……私たちが真の仲間になるために――――」 

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