第6話 魔道具 自動販売機

 そして、物語は冒頭に戻った。


「まだ、生きているのか? 俺は……」


 ジェルは目を覚ます。 


「夢だったら、良かったのになぁ」


 彼は切断された腕を見る。 


 激しい疲労と怪我……生命力が失われているような感覚。


 痛みは麻痺している。 


「意外と頑丈な体だな、俺。まだ死なねぇでやんの」


 自虐的な呟き。誰に聞かせるわけでもなかった。


 だが、返事があった。


『力が欲しいか?』


「なッ――――!?」


驚きのあまり、剣を抜く。 


鞘から抜かれた愛剣。いつの間にか剣先は折れていた。 刃には、幾つもの刃こぼれ。


(だが、ないよりはマシだ……ふっ馬鹿だな。俺はまだ生きようとしている)


 しかし、相手からの返事は――――


『力が欲しいか? 対価を差し出せ、さらば与えん』


 言葉の主は姿を見せない。暗闇の奥から声だけ投げかけてくる。


(なんだコイツは? 神話の天使とか悪魔の部類か? だったら――――)


「上等だよ! 今の俺には、やれる対価は金ぐらいだ」


 ジェルは懐から金を取り出した。 最後にレオから渡された冥土の土産。


 その額は1年は遊んで暮らせる金だが、今更――――


「ほらよ!」と嫌な思い出を投げ捨てるように金を投げた。


 すると、意外な言葉が返ってくる。


『ご利用ありがとうございます。商品をお選びください』


「ん? 何を言っている?」


 拍子抜けするような返事。


 どういうことなのか? と訝しがるジェル。


 やがて、声がする方向。そこから薄青の光が零れ落ちていく。


「この光……古代魔道具アーティファクトか! なぜ、初心者向け迷宮に! それも未発見の物が!」


 古代魔道具。 


 今では失われた未知の技術が使われている魔道具だ。


 現在の魔法では再現不可能とされ、奇跡にも等しい効果を発揮する物もある。


「――――」と考え込むが、目の前の古代魔道具がどのような物か、見当もつかない。 だから――――


「お前に何ができる?」


 ジェルは素直に聞いた。 幸いにも、この古代魔道具には疑似人格が備わっていて、人間との会話が可能なようだ。


『おすすめは、こちらになります』


 薄青く光る部分。よく見れば古代文字が書かれているが……


「読めない」


 当然だ。古代文字なんて読める人間は限られた数しかいない。


『少々、お待ちください。現在の言語を分析。アップロードを開始します。残り時間3分……』


「……そうか。考えてみたらコイツ、古代魔道具のはずが現在の言葉を使っているからな」


 そう納得したジェルは3分を待つ。すると、表示されている文字に変化が起きる。


『おすすめはこちらになります。購入される場合は画面をクリックしてください』


「これは……完全回復? それも10Gで?」


 10G それは、安めの果実を1つ購入できる程度の金額。


 半信半疑でジェルは、画面で矢印の表示されている部分を触った。


「なんだ? 光が! 体を包んでいく。熱い……馬鹿な。切断されたはずの腕が……」


 それは文字通りの完全回復。 切断され、無くなったはずの腕すらも元通りになっていた。 



 


     

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