第40話 一方、レオたちは――――②

 レオ・ライオンハート。


 近隣最強の冒険者だったはず……しかし、その肉体は変わり果てていた。


 かつての彼は前衛に立ち、巨大な盾で仲間を守っていた。


 自身の何倍もの魔物を相手に力勝負。


 今はどうだろうか? 


 巨大な盾も手放し、強固な鎧すら脱ぎ捨てている。


 必要最低限の軽装。 剣は、護身用と見間違うほど、小ぶりな物を装備していた。


 それでも、真っすぐ歩けていない。 油断をすれば、バランスを崩し倒れかねない。


 そんな彼の様子に、


「大丈夫?」とドロシーは声をかける。


「大丈夫……あぁ、俺の事か? 大丈夫だ、問題ない」


「問題があるようにしか見えないから言ってるのよ。無理そうなら休憩しても良いのよ? ほら、戦闘はシオンに任せなさい。どうせ、魔物はゴブリンしかでないのだから……」


「ゴブリン?」とレオは驚いた顔をした。 


 彼は動揺を誤魔化すように視線をドロシーから外す。


 必死に湧き出る恐怖。止まらない体を振えを無理やり抑える。


 ドロシーも自分の失言に気づく。


(こんなにゴブリンに反応して、怖がるなんて……ジェルは、彼に何をしたの?)


 そして、それはもう1人の仲間にも言えた。


 シオンはジェルと戦ったらしい。詳しくは彼女の口から聞いていない。


 とても聞き出せない。 ジェルとの戦いで精神に深いダメージを受けた彼女は別人のように変わってしまった。 


 凛とした東洋の剣士。その面影は残っていない。


 酷く攻撃的な性格に変わた。時折、叫び声を上げては、彼女にしか見えない敵と戦い始める。


 サムライと言われた彼女。今は狂戦士バーサーカーのような存在に……


「一体、何をどうやったら、ここまで人間の心を壊せるの?」


 ドロシーは震える。自分だけが正常だ。


 レオもシオンもジェルによって心を壊された。


(自分が無事なのは? たまたま……たまたま、見過ごされただけじゃないの?

 もしかしたら、2人と同様に心を壊されていたかもしれない……)


 そんな事を考え、心が圧し潰されそうになった。しかし――――


「大丈夫だ」


「え?」


 見れば、レオが震えながらも微笑んでいた。


「心配しなくても大丈夫だ。俺もシオンも取り戻せる。新しい心の支えさえあれば……きっと」


「……」とドロシーは彼の言葉を譜面通りに受け取れなかった。


(確かに……確かに、この迷宮でジェルの身に何かあった。それは間違いないと思う……でも……)


 ここは初心者向けの迷宮。すでに多くの人間が出入りしている。


 今さら、彼が言うようにジェルが強者になった理由――――レオは古代魔道具だと言っているが――――それが発見できると、ドロシーには思えなかったのだ。


  


   

   

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