第39話 一方、レオたちは――――

 薄暗い通路に灯り。


 冒険者が持つ松明が頼りなく揺れている。


 迷宮。


 邪悪なる魔物が出現する凶悪なる場所。


 危険だからこそ、貴重な資源が採取できる。


 だから、冒険者は自らの命を天秤にかけて、金を望むのだ。


 ――――いや、あるいは命を脅かす場所でなければ、自分の存在意義を見出せない中毒者ジャンキーなのかもしれない。


 そんな場所、最弱の魔物であるゴブリンは、踏み入れた冒険者たちを嘲笑う。


 言葉にしようものならば……


「今日も来た。愚かな人間どもだ」


「わざわざ暗闇で灯りをつける。自分たちの居場所を知らせる馬鹿たちだ」


 最弱の魔物が出現する迷宮は、初心者向け迷宮だ。


 当然、訪れる冒険者も初心者が多い。


 だから、彼らはバカにする。 弱き者、人間として――――


 だが、今日は違っていた。


 暗闇に爛々とした2つの光が揺れている。


 ゴブリンたちも、それが目だとは認識できなかった。


 「あれは……なんだ?」と隠れて様子を窺うゴブリンだった。


 次の瞬間、光が目前に瞬間移動したのだ。


 そして、その光が人間だと認識すらよりも早く、鞘から抜かれた剣で五体をバラバラに切断させた。


 瞬間移動の名前は――――『縮地』


 彼等は、その技を知る事もないだろう。 


 少し前に起きた町で冒険者たちの争い。 アレクと言う男と、シズクという同類が同じ技を使った事を――――


 同じ技? いや、明らかに違う。


 今の『縮地』は、アレクやシズクが使用したものよりも遥かに早く、まるで別物。


 なぜなら、彼女こそ本家。


 正当なる『縮地』の使い手 シオンがそこにいた。


 レオたちの冒険者仲間であるはずの彼女。だが、彼女の様子はおかしい。


「ぐっがががっ……殺す!」


 シオンは剣を振る。 


 暗闇の中、視覚が効かないにも関わらず……


 物陰に隠れていたゴブリンを正確に刺し殺した。


「殺す、殺す、殺す、殺す……」


 明らかに以前の彼女ではない。正気を失い、狂気に身を任せた彼女の姿は、すでに侍ではない。


 狂戦士バーサーカー


 そう言われるまでに猛り狂っていた。


 隠れていたゴブリンたちを全滅させた後も剣を振り続ける彼女。


 まるで、存在しないはずの幻影すら斬り殺そうとしているように見えた。


 すると後方から――――


「無茶し過ぎよ。無言で駆け出さられたら後衛はフォローできないわよ」


 シオンの冒険者仲間である魔法使いドロシーが追ってきた。


 そんな彼女の声にシオンは、僅かながら正気を取り戻したかのように地面を指さした。


「ゴブリンだ。彼に見せるのは良くない」


「そうだけど……」とドロシー。


 だが、もう1人。 ヨタヨタと頼りない足取りで男が現れた。


 彼の名前はレオ・ライオンハート。


 そのはずだった。しかし、精気が抜け落ちたような彼の顔。


 彼を知る者なら一同に「本当にレオか?」と口を揃えただろう。


 それほどまでに――――




 


   


 

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