第38話 冒険者を蹴散らした

 地面に倒れたラカン。 彼よりも上の冒険者となれば……


 自然と視線はリンカーに向けられる。


「え? あっしですか!? 無理無理無理!」と首を激しく左右に振る。


 この老人の評価はラカンよりも高い。


 レオがいなくなった今、実質的なトップと言える。


 しかし、彼は魔法使い。 ラカンのように武術的な力ではなく、超威力の魔法を連射させる強さ。


 それは、決して対人戦闘能力と結びつくわけではない。


 リンカーが対戦を拒否した事で、誰もシズクと戦う者はいなくなった。


 間違いなく、この場にいる誰よりも彼女が強い。 そう認めざる得ない状況になったが、それすら彼女は満足しなかった。


「次は? 誰もいないのか? それじゃ――――全員でもいいぜ?」



 シズクの言葉に「――――」と冒険者たちは口を閉ざして沈黙した。


 その直後だった。


「――――ふ、ふざけるな!」


 誰かが叫ぶと周辺の冒険者たちも、同調する声を上げる。


 彼らは本気だった。 本気で、集団でシズク1人に襲い掛かろうとしている。


 殺気と罵倒を一身に受けるシズクだったが、彼女は――――


(やはり、わかりやすい。彼女が言っていた通りだ)


 シズクが思い出していたの冒険者ギルド受付嬢の言葉だった。


(冒険者は善くも悪くも正直か。要するに子供……いや、その本質は私たち魔物に近い。ならば――――)


「かかってこいよ、冒険者ども。誰が強者で、誰が弱者かわからせてやるからな」


 その言葉で十分だった。 ギリギリまで堪えていた感情が爆発する。


 暴徒と化した冒険者たちが手にしたのは、自らの腰に帯びた剣。


 刃引きした物ではなく、文字通りの真剣。


 それを持ってシズクに――――


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「そ、それを全員やっつけたのか?」


「おう、誉めてくれても良いんだぜ?」 


 事の顛末を聞いたジェルは天井を見上げた。


 この町の冒険者全員と戦い、勝った。


「無茶苦茶過ぎで、これからどうなる想像もできないや」


「けど、この町のボスが誰か、心に刻み付けてきたぞ」


「……念のために聞くけど、誰も殺してないよね?」


「もちろんだ。念のために倒れた連中に治癒魔法をかけて帰ってきたわ」


 自信満々で行われたシズクの勝利報告。


 最初は困惑していたジェルだったが……


(シズクの行動は正体がバレる危険性をわかっていてやったことだ。それほどまで冒険者になる事に拘っているって事なんだろう)


「よし! 気を取り直して、明日からは本格的にギルドで依頼をこなしていこう」


「いいぜ? こんだけ、コテンパンにしてやったんだ。明日のギルドは、がら空きで依頼を選びたい放題だ」


「――――」


「ん? なんだよ、ジェル。そんなに見つめて?」


「もしかして、それも計算してた?」


「嫌だなぁ、そんなわけ……少しはあるんだけどね」  

  

  

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