第16話 尾行者
「おう、シオンか。すまねぇ、新しい仲間が入るまで休業な」
「……情けない」
「なに?」
「仲間を殺した事を引きづっている」
「ちょっと!」とドロシーが止める。
「それは、聞かれたらよくないでしょ!」
「……俺は構わねぇぞ。迷宮で俺たちが生き残るために、1人犠牲にした。よくある話だろ?」
「でも、予想以上に後悔している。人の人生を潰した。その重たさに今頃になって気づいた」
「うるせぇ! おまえだって――――」
「私は、常にそういう覚悟を持っている」
凛とした音が聞こえた。
「お前、前にも何度か経験しているのか?」
「――――それで、国を追われたと言ったら?」
「――――」とレオは酔いが醒めていった。彼女は、シオンは過去にも仲間を殺していると言っているのだ。
けど、レオは言葉を捻りだす。
「お前だって、ドロシーだってわかっていただろ? 冒険で襲い掛かってくる不安や恐怖。それを発散するためにアイツを無能に仕立て上げてぶつけていたんだ。 俺たちは――――」
「いや、私は違う」
断言するような口調。レオは思わず言葉を止めた。
「私は、自分以外の人間を有能だと思っていない」
「それは、それは俺も無能だって言ってるのか?」
「さぁ? どうだろうな……試してみるか?」
「――――」
「――――」
2人は無言で睨み合う。 そして、手はゆっくりと剣に向かって行く。
「ちょっと、止めてよ。こんな所で喧嘩をするつもり!」
ドロシーの叫び声。
これには、静観していた他の冒険者も立ち上がる。
2人が、ここで戦闘は始めると無理やり止めに来るだろう。
「喧嘩するつもりはねぇよ。酒が入り過ぎて、興奮しただけだ。お前も自分の席に戻れ」
そんなレオに「……」と無言でシオンは視線を向けるだけだった。
「すまねぇな、シオン。俺にやる気を出させるために言ってくれたんだろ? 悪かったよ」
けど――――
「そんなつもりじゃない」と告げて、彼女は外に出た。
宿まで夜道を1人歩く。
彼女は苛立っていた。 レオに対してではない。
彼女は、上を目指さない人間が嫌いだった。
だから――――あの男は、ジェル・クロウが嫌いだった。
斥候として高い能力を有している。 戦闘能力は低いが冒険者としては評価していた。
(だから、気にいらなかった)
実力はありながら現状で構わないという甘え。
あの自己評価が低さは、シオンを苛立たせ攻撃的にさせていた。
そんな事を考えていると、不思議な疑問が浮かんだ。
(――――もしや私は、あの男に好意を抱いていたのか? いや、そんな馬鹿な)
彼女は笑おうとした。 だが――――
(何者か? 背後から誰かが付いて来ている?)
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