第75話 閑話休題 レオたちは――――③

 狂戦士 


 シオンは狂気に意識を持っていかれそうになる。


 あの日、芽生えた狂気。 剣の極致を目指していた彼女が受けた挫折。


 二度と剣を振えなくなると意識した瞬間……確かにシオンは狂った。


 そして、気づいたのだ。


 狂気に身を任せた時の感覚――――確かに身体能力の向上。


 ――――いや、身体能力とは違う。


 では、何か? そう説明する事は難しい。


 何か―――― こう、体が―――― 


 生命体として、何かが変化した感覚。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「素晴らしいですね」


 狂戦士へ変化したシオンに、魔法使いの少女は絶賛する。


「精神の変調が肉体を次の舞台へせり上げる。それは私たち教団にとっても理想の1つで……」


「教団? 教会とは別の邪教連中がお前の正体か?」


 その声は、目前のシオンではなかった。


「――――!」と少女は驚く。 狂化したシオンに目を奪われていた隙にレオが背後を取っていたのだ。


「このっ! 脅かしても――――」と彼女は最後まで言えなかった。


 レオすら囮。本命は――――ドロシーだった。


「――――訪れるは大地からの祝福 ならば、我らの慟哭にお答えください――――」


 省略した実戦的な詠唱ではない。


 万全の効果を発するために必要な長い詠唱を唱えており――――それも終盤も終盤。


「さすがにこれは――――」


「おっと、逃がさないぜ。魔法使いさん?」


「馬鹿ですか、貴方は?」


 レオに腕を掴まれた魔法使いの少女。顔は隠しているままであるが、隙間からでも焦りが見える。


「あの魔力を浴びたら貴方だって無事にはすみませんよ?」


「知ってるか? 俺たちがどうやって大物食いジャイアントキリングをしてここまで来たかを」


「まさか、今までも自爆技で? く、狂ってますよ!」


「へっ、よく言われるぜ……俺ごと打て、ドロシー!」 

 

「もちろん! 突き進め野獣の群れよ――――|漆黒たる猫《ベスティエ

ベスティー》」 


 猫の型になるのは黒い雷。 しかし、その大きさは猫に非ず。


 長時間詠唱による強化を受け雷猫はドラゴンにすら匹敵する巨大さ。


 それが、人間に向かって吶喊を開始する。


 それに対して魔法使いの少女は、


「本当に離しなさい。あの魔法はいくら何でも――――」


「俺の装備は魔法耐性に特化している。生き残る可能性は案外高いぞ」


「離しなさい! 離せ――――」


 焦りを見せた彼女だったが、次の言葉は


「なんちゃってね」と彼女は笑って見せた。


 彼女は羽織っていたマントを脱ぐ。


 それを迫り来る雷猫に向けて投げつけた。


「このマントの名前は『吸魔のマント』 通常は魔素を吸収するだけの道具でしかないけれども――――直接、攻撃魔法に投げつけると破損する代わりに1度だけ魔法が霧散させてくれる」


 マントが雷を吸収しきれずズタズタに破れていく。


 その代わりに彼女の言葉通り、魔法の獣は魔力が分散され、小さくなった。


「――――っ! それでも十分に威力は残っている!」


「そうだね。でも、切り札は『吸魔のマント』だけじゃないんだよね」


 マントを脱ぎ捨て、素顔になった少女。 彼女は、杖で地面に突いた。


 すると杖から魔力が地面を走る。魔力が地面に描いたのは魔法陣。


 魔法陣は雷猫を通さない――――だけでは終わらなかった。


 行き場を失った魔力は持ち主へ。 ドロシーへ跳ね返って行った。  

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