第106話 シオン、唐突な死
「なんと面妖な」とシオンは吐き捨てるように言った。
その表情には疲労の色は濃い。そのシオンと相対しているシズクはというと――――
「どうした? まだ一合しかやり合ってないはずだぜ?」
言葉通りに余裕を見せている。
巨大な大剣を構えもせずに肩に担いで挑発。 隙だらけの構えというよりも、およそ戦いの最中に見えない。
しかし、それでもシオンは攻める訳にはいかなかった。
思い出すのは最初の攻防。
踏み込むと同時に間合いに入る。
「その首、貰った!」と声に出る。戦いの最中でありながら、思わず心が漏れ出る会心の出来。
しかし、その直後の異常事態が起きた。
「なっ!」と驚きの声とともに、反射的に後方へ飛んだ。
その様子に――――
「へぇ、初手から殺すのに躊躇がないじゃん。お前、人を殺し慣れているのか?」
シズクは嘲笑うように言う。 だが、その言葉にシオンは心が揺さぶられるどころではない。
(剣を振るった様子もない。されど、目前に剣先が突きつけられていた。古代魔道具……だが、あまりにも世間の道理から外れている)
動揺は激しい。
(過去に似たような剣士と戦った。 瞬間移動系魔法を腕と剣にのみ使用して、剣を振る行為を省略する恐ろべき相手だったが……似ているが、明らかに違う)
シオンは考察する。 それから、少し時間が経過して、「なんと面妖な」と最初のやり取りに戻った。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
シズクは魔法を使っている様子はない。剣士であるシオンでも相手が魔力を使っているか、否かは察知できる。
(やはり、大剣か。コイツとは相性が悪いから戦うなと黄金のアスリンと言われていたが……)
「ん?」とシズクが小首と傾げた。
「お前、確かシオンって言ったな。何が可笑しい? 戦いの最中に笑っちゃうタイプの人間か?」
「……私は今、笑っているか? そうか――――ならば、ここが私の死地となる!」
シオンは踏み込むと同時に技を―――― 『虚空斬撃翔』
離れた場所――――シズクへと斬撃を飛ばす。
だが、「ふん!」とかけ声。シズクは大剣を振るう。
それだけだ。それだけでシオンの技『虚空斬撃翔』をかき消してみせた。
「――――ッ! 怪物め。それでこそ退治してやる気になる」
シオンの殺気が膨れ上がって行く。
かつてのジェルとの戦いで打ち込まれた妖刀の恐怖。
やがて恐怖は狂気に変化していく。それを体験した時、彼女は侍から狂戦士に変身する技を身に付けたのだ。
しゅうううううとシオンの口から瘴気のような白い息が長く漏れる。 その姿は人間ではなく、別の生物に変わってしまったみたいに――――
「どう? まだ戦っている?」と呑気な声で中断されてします。
狂気に身を任せているシオンであっても――――
「なっ! お前は、ジェル……ジェル・クロウ!? 馬鹿な、それではレオは? レオ・ライオンハートを倒したとでも……」
「倒したさ。もうわかっているだろ? 俺と君たちの差は、古代魔道具だけじゃない」
はっきりとした口調。 それは確かな事実だ。
最初は古代魔道具を有したジェルによって、レオたちは完全に敗北した。
(ならば、同じ武器を――――全く同じ古代魔道具を持って戦えば、負けるはずがない。そのはずではなかったのか? まさか……違うのか?)
その事実が狂化しているはずのシオンを混乱させ、失っているはずの思考を加速させていく。
(まさか、あったと言うのか? ジェル本人に才能が……私たちを倒すほどの才能が――――そんなの、そんなものは認められ――――)
シオンの意識は、そこで途絶えた。
銃声。
背後から銃で撃たれたシオンは倒れた。 出血が地面を染めていく。
「助かりましたよ。真の仲間にするにはレオよりも説得が難しいそうでしたからね」
彼女が――――黄金のアスリンが、今も狙撃を続けているケンタウロスのセツナに命じて、シオンを射殺してみせたのだった。
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