第107話 現れたアスリン
唐突に出現した黄金のアスリン。
(気配がなかった。おそらく、シオンの黒装束と同じ古代魔道具の使用。しかし――――)
ジェルは倒れているシオンに視線を移す。
(本当に死んでいる? それは……とても信じられない)
かつての仲間の死体。 追放され、袂を分かれたジェルだったが、それでも間違いなく仲間と言える時期があった。
それを――――そのシオンの遺体に、アスリンは無慈悲にナイフを突き立てた。
「な……」と驚くジェル。対して、アスリンは無表情で――――
「助かりました。 これで私の目的は、ひとまず達成って事になります」
「目的? 達成……」
「はい、私の魔道具は発動条件がありまして、分厚い鎧を着こんだレオは戦闘の隙をついて……」
「そんな……そんな事を聞いているんじゃない!」
「おや、怒らせてしまいしたか? しかし―――」
しかし……と彼女は笑う。
「妙な事を……貴方って、この人たちにひどい目に合わせられたって話じゃなかったのですかね? どうして、そんなに怒っているのですか?」
「お前に、お前なんかにわかるものか、俺はみんなを――――」
「それならそれで、結構です。私はこれで――――」
気配が薄くなっていく。 おそらく、古代魔道具の発動で逃げるつもりなのだ。
しかし、「させねぇよ?」とそれまで黙っていたシズクが動いていた。
振るわれた大剣は地面を破壊するような一撃。
「なんて、馬鹿力を! この人、本当に人間……いえ、まさかっ!」
何かを感づいたアスリン。
しかし、シズクの目的は、彼女を逃がさない事。
「気をつけな。元より私の一撃は、お前の回避する方向を誘導する事――――ジェルの位置に誘導することだぜ?」
「――――ッ!」とアスリンは古代魔道具『生と死のナイフ』をしまい込むと、本来の武器である杖を構えて防御の姿勢にまわる。なぜなら――――
「逃がさない!」とジェルから放たれた大振りの一撃。 彼女の頭上から剣が振り落とされた。
アスリンは杖で受けるも、彼女は後衛職。 一撃を防いだのが、すでに僥倖。
力負けをしてジェルの剣が目前にまで迫る。 さらに、横からシズクが飛び込んできている。
「~~~ッ! セツナは足止めを、シオン――――まだ早いけど、立って!」
銃声。 狙われたシズクは足を止めて、寸前で回避。
その間に彼女が――――シオンが立ち上がっていた。
神速とも言える彼女の運足。歩行術は、離れていたジェルの位置まで瞬時に移動して剣を抜いた。
「―――――っ! シオン!? 生きて……なぜ?」
ジェルは知らない。 アスリンの古代魔道具『生と死のナイフ』が殺した対象を蘇らせ傀儡として操る能力だと言う事を――――
そもそも、ジェルは知らない。 アスリンが何者か? なぜ、自分を狙うのか?
そもそも、ジェルは――――彼女の名前すら知らないのだ。
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