第108話 VSアスリン・ライヤ 

 長丁場の戦闘。


 不安定な足場を苦にしない機動力。それに加えての長距離&精密射撃。


 上位冒険者たちを翻弄し続けていたケンタウロスのセツナだったが、ついに終焉が近づいた。


 上位冒険者たちに追随する非戦闘職……つまり斥候の専門家たちが動く。


 セツナがいる場所は、切り立った崖のような地形。簡単には近寄れぬ場所で一方的な攻撃が行われるからシンプルに強い。


 ならばと斥候たちは気配を殺し、素手による岩壁登攀ロッククライミングを開始していた。


 そして罠の設置。 ターゲットが罠に引っかからなくてもいい。


 罠の存在に気づかせ、機動力を封じる。それから逃げ場のない場所に追い込む。


 それが目的。


 恐ろべきと言えるのは、彼ら斥候たちは事前の打ち合わせもなしに、効率的に罠を仕掛けていく所……


 セツナの移動パターンを読み取り、接近する場所を正確に――――


 だが予想外の事が起きた。


 獣が交じった亜人系の優れた五感ならば、鉄の匂いだって嗅ぎきれるはずだ。


 そのはずが、簡単にケンタウロスは罠にかかった。


 簡易的なロープの彼女の足に絡まって行く。


「今だ!」と隠れていた斥候たちは立ち上がり、ロープをケンタウロスの体に巻き付けるように投げると――――


「良し!」と高所である崖から飛び降り始める。


 その落下による勢いで彼女に巻き付いたロープがさらに締まる。


 ケンタウロスの馬体。 およそ300キロほど。


 人間の体重で制御できぬ巨体であれ、数人がかりが重力を利用すれば――――


「落ちたぞ!」と声が叫ぶ。


 ケンタウロスのセツナ。 ロープで拘束されて、地上へ。


 その姿に脅威を感じる者は、もうここにはいない。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


「ちっ!」と舌打ちを1つ。 彼女――――アスリンは、ジェルとシズクと対峙している。


 アスリンは離れた場所の声で状況を把握した。


(セツナが捕縛されましたか。こちらの支援魔法が届く範囲外。新しい傀儡……ドロシーは切り札として待機させておきたいけれど……)


 彼女が考える。 


 元より彼女の計画では、セツナを使い上位冒険者たちを混乱させる。

 

 その隙に、魔道具を使い自分たちとジェルとシズクの2人を隔離。


 セツナが無効化させるよりも早く、ジェルとシズクを倒して古代魔道具の回収……


(できれば、2人も真の仲間になってほしかったのですが……)


 アスリンは手にした『生と死のナイフ』に視線を落とした。


 だが、その様子を嘲笑うようにシズクが言う。


「今は撤退を最優先に考えてるだろ? 残念だが、そう簡単に逃がしてはやらねぇぜ?」


「……」とアスリンが無言なのは、思考を続けているからだ。


(まだ、そう簡単に他者――――上位冒険者たちの介入はできないようにしておきました。 時間には余裕がありますね。彼等を始末する時間的余裕が……)


「いいでしょ。私の名前はアスリン・ライヤ。字は黄金……黄金のアスリン。教団第十三課、通称は『守護者の妖精スプリガン』……故あって、あなた方を倒します」 

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