第143話 新たなる気配

 斬撃。  深紅がばら撒かれる最中でありならもドロシー&シオンは動く。


 もしも、彼女たちの反撃が剣によるものだったら、ジェルも反応ができただろう。


 しかし、その動きは原始的。 感情のままにジェルの頭部を掴み、投げるように地面に叩きつける。


 明らかな勝機。 ドロシーとシオンは倒れたジェルに向かって魔剣を振るった。


 甲高い金属音が響く。 辛うじて防御が間に合った彼は二本の剣で魔剣を受けた。


「くッ! 流石にしぶとい、ジェル・クロウ!」


「こんな所で命を落とすわけにはいかないのさ。この俺にはやるべきことがある」


「――――だったら、こんな場所にノコノコと出て来るな。一生、安全な場所で籠ってな!」


「ふっ、それは反論できないな」とジェルは下から蹴りを放った。


 浮き上がるドロシー&シオンの肉体。 


 窮地から脱出したジェルは立ち上がり、再び対峙する。


「もういいだろ? その出血量は治療しなければ、死ぬ……いや、待てよ」


 降伏宣告を進めたジェルだったが、そこで違和感に気づく。


 なぜ、血が出ている? ここまでの戦い、シオンの肉体には剣は効き目が薄かった。


 刺して、斬っても、流血はなかった。 


(なぜだ……何かシオンを殺せる条件があるのか?)


 正直言えば、シオンの弱点。 『妖刀ムラマサ』による精神攻撃。


 少しは自身でも疑っていた。 ……本当に効果的なのか?


 そんな高速で行われる戦闘思考。 しかし、それを遮るように重い音が響いた。


「決着がついた……のか?」と視線をドロシー&シオンから外して、音の方角を見る。


 音の正体は、巨体が倒れた音。 決着は勇者レオとトム将軍の戦い。


 倒れた者の正体は、南下作戦参謀トム将軍。 


 命は奪われていない。 ただ、戦闘不能になっただけ――――


 その背後から、ゆっくりと姿を現したのは、勝者であるレオ・ライオンハート。


「待たせたな……再戦の準備を急ぎな?」


 もちろん、無事ではない。


 防具の一部は砕けて、顔には打撃を受けた痕跡。体には血が流れている。


「……1対2か。少しだけ不利になったな」と呟くジェル。


「悪いな。こっちも全力で動けないかもしれないが……有利を生かさせてもらう」


「早くドロシー&シオンの動きを封じておけば逆転してたかもしれないが――――言っても遅いか。それじゃ――――」


 決着をつけようか? そう言いかけて、ジェルは言葉を止めた。


 気配がする。 何者か近づいてきている。 


 そのプレッシャーに動きを止めたのはジェルだけではない。


 レオ・ライオンハートも、ドロシー&シオンも、動きを止めている。


(――――知らないのか? 今、ここに向かってきている存在な何者……誰もわかっていない?)


 だが、姿を現した人物はジェルの知る人間だった。 

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