第142話 ジェル・クロウの反撃

「魂を失ったシオンの肉体に、肉体を失ったドロシーの魂。思った以上に噛み合って危険だな」


 ジェルは距離を取りながら――――いや、正確には逃走を開始しながらも冷静に口にした。


 ドロシー&シオンは強引にも接近を狙ってきている。 そうはさせないとジェルは魔法を多用する。


『ホワイトエッジ』


「氷の刃で足止めとしてからの――――」


『ファイアボール』


「火球を本命としてダメージを奪う!」


  ジェルの魔法コンボ。だが、手ごたえはない。


「無駄だ。今のシオンには、私の魔法技量も持ち合わせている」


「チッ! 魔法を魔法で相殺したのか。減速すらしないのは可愛げもないな」


「貴様に見せる可愛げなど持ち合わせていないわ!」


「なら――――」とジェルは、飛行魔法であるフライトを唱える。


 空中戦。 ドロシー&シオンは飛行魔法の経験が少ないのだろう。


 両者の間に差が広がって行く。


 その時間差を利用して――――「試してみるか」と彼は『魔王の魔剣』を解除した。   


 再装備した武器は『名刀コテツ』と『妖刀ムラマサ』


 『魔王の魔剣』の性能と比べると落ちる日本の剣ではあるが――――


 背後から迫り来るドロシー&シオン。その速度と突進力を逆に利用しての――――


 カウンター 『土龍撃突』


 その技に反応、彼女たちは大きく回避した。 この戦いが始まって、怒りと狂気を見せていた彼女たちは、この攻撃に対しては恐怖のようなものを見せた。


「やはり、この二本の剣の効果は有効なのか……」


「ジェル……貴様ぁぁ!」


「名刀コテツの武器破壊。妖刀ムラマサの精神攻撃――――― 武器になったドロシーにも、精神を持ち合わせていないシオンにも、通じる特化武器というわけか」


「――――」と彼女たちは無言でジェルを睨む。それは肯定を意味している睨みだ。


 魔剣となったドロシー。『名刀コテツ』の武器及び防具破壊の特殊効果を受ければ、破壊は免れない。


 一方のシオンは、精神が壊れている。 それ以上の精神負荷が『妖刀ムラマサ』による攻撃で与えられてしまったら、少なくとも現状維持はできないはず。


「いくぞ――――『虚空斬撃翔』だ!」


 ジェルが繰り出したのは斬撃を飛ばす技。それを彼女たちは必要以上に大きく避ける。 


 受ければ本体の魔剣であるドロシー自体が破壊されてしまう恐れがあるからだ。


 そして――――大きな回避は大きな隙となった。


「これが、全部回避できるか? ――――『天魔六乱舞』」 



 一気に間合いを詰めたジェル。瞬時に六斬撃を放った。


 「ぐっ……!?」とドロシー&シオンも攻撃を魔剣で受けるわけにはいかない。

 

 そして刹那の時間に放たれる6つ斬撃を回避する事は絶対に不可能だ。


 しかし――――彼女たちは吠える。 


「何も対策をしていないと本気で思ったか!」


 隠し武器。 小ぶりの剣を取り出した彼女たちは防御。


 もちろん、普通の武器で全て受けるのは不可能。


「確実に致命傷になる斬撃を僅かにでも弾ければ――――生き延びれる!」


 一撃目で、その剣は叩き折られる。 武器破壊の効果……しかし、彼女たちは折れた剣をそのまま防御に使う。


 二撃目、攻撃を受けるのではなく、軌道を逸らす。 


 三撃目にして、防御に使っていた剣は跡形も残らずに消滅。


 四撃目――――残りの3斬撃は、防御は不可能。 その体――――シオンに叩き込まれた。


 血が舞う。


 しかし、古代魔道具によって強化されているシオンの肉体は、無防備に受けた斬撃であっても命を紡ぐことができた。  

   


 

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