第141話 ドロシーとシオンの現在

「……なるほど。その魔剣は古代魔道具ではなく、自分の魂を封じて作った魔剣か。なんて愚かな事を――――」


「黙れ!」


 その声は、ドロシーの肉体から聞こえてこなかった。 彼女の杖――――魔剣から聞こえて来た。


「私の体は死んだ。それはお前の――――貴様のせいだ!」


 彼女の体――――魔剣は地面に突き刺さる。 そこを中心に地面に魔法陣が出現した。


「召喚魔法? ここで何を出すつもりだ?」


 そこから現れた黒い影。 それは女性の姿をしていた。


 その女性はジェルも知っている者だった。


「シオン? 生きていたのか?」


「――――」と彼女は答えない。 


 かつての仲間、剣聖を目指していた東洋の女性、シオン。しかし、その目には精気が宿っていない。


 まるで死体のように見える。 だが、死体ではない。


 ドロシーの肉体――――魔剣を手に取った。


「シオンも死んでいるのか?」


「生きているさ。ただ、あの死から蘇らせても、今も意識を取り戻さない――――でも、彼女の技は生きている」


 シオンが魔剣を握る。 圧力が増して行く。


『虚空斬撃飛翔』


 斬撃がジェルを襲う。その技はシオンが振るう事で、ジェルのソレよりも威力が高い。


「――――ッ!」とジェルも焦りを見せた。 


『虚空斬撃飛翔』


 相殺――――は無理でも威力を削る事を狙ってジェルも同じ技を繰り出した。


 威力は低下できたものの斬撃はジェルに通る。 


 袈裟斬り


 彼の肩から逆側の腰にまで赤い線が通り、それから血が零れ落ちた。


「――――ッ!」と顔を顰める。 


 ダメージは、致命傷にはならない。しかし――――文字通りに――――体に痛みを刻んだ。

 

「技はシオンのまま……いや、鋭さを増している。 その姿になっても成長を続けているのか?」


「黙れ、貴様がシオンを語るな!」


『土龍激と――――』


 ドロシー&シオンは感情のまま、突撃系の技を繰り出そうとした。


 しかし、それはジェルの誘い。――――罠だ。


『ファイアボール』


 突撃技の構えから繰り出すよりも早くジェルは魔法を放った。


 離れた位置。 発動も早い。


「――――くっ! 『天魔六乱舞』で」


 魔法切断。 ドロシーの剣は火炎魔法を切り払う。


 だが、火炎魔法と同時にジェルは前に飛び出ていた。


 技を終え、動きを止めたドロシー。それが隙になる。


「見せてやる。これが俺の『天魔六乱舞』だ!」


 シオンの肉体にジェルは六連撃を打ち込む。 


 手加減はした。 しかし、戦闘は続行できないダメージを植え付けた。


「それでも、まだ動けるのか? ドロシー、シオンの体に何かした――――いや、聞くまでもないか」


 手加減はしたが、確かにシオンの体を斬った。 致命傷にならないように、僅かに肉を斬るつもりだったが……


(刃が通らなかった。この魔剣が……だぞ?)


「さて……」とジェルは動揺を誤魔化すように呟く。


 剣技が通じない相手に勝つ方法。 今から考えなければならなくなったからだ。     

  


 

 

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