第64話 幽霊屋敷を調査しよう②

(2階……何かいる)


 ジェルが持つ斥候としてのカン。 そのカンが危険性を告げてくる。


 軋む音が出るほどに古ぼけたはずの階段。 だが、彼は無音で駆け上っていく。


 どういう技術なのだろうか? シズクを1階に待機させ、魔法の光源も消した。


(気配は……なし。臭いは……埃臭いが異臭というほどでもない)


 夜目の効くジェルは暗闇でありながらも、視界がクリアに見えているかのように進んで行く。


 チラリと背後を確認する。 すると人影が見えた。


 よく見れば、足は地面についていない。ふわふわと浮いている影に対してジェルは、


(よし――――ちゃんと足音を出さない飛翔魔法でついてきているな、シズクのやつ)


 そう判断した。 しかし、次の瞬間にジェルは魔法を発動させる。


『シャイニング』


 閃光魔法で周囲を輝かせた。 ジェルの背後に急接近していた人影はシズクではなかった。


「――――っ! 怨霊? そういう類か!」


 ジェルは剣を抜いた。 


 怨霊が笑っているのがわかる。まるで――――


『その剣で何ができる?』


 そう嘲笑っているかのように見えた。 だが、ジェルは構わず剣を走らせた。


「俺の妖刀は肉体ではなく意思を切り裂く!」


 その言葉を事実だと判断したらしい。


 怨霊はジェルの剣を大きく避けた。


『━━━━』と人ならざる者の声を発する。


 だが、声が理解できなくとも、発する者の怒りは理解できる。


 だが、ジェルは威圧に圧倒されない。


 「来いよ。こっちはゴーストタイプの魔物退治には慣れ親しんでいるんだ」


 怨霊は手を上に上げる。 すると、何かが飛んでくる風切り音が聞こえてきた。


 霊的な物ではない。実体を有する何か────いや、今の状況を省みれば、それが武器だとわかるだろう。


 怨霊の武器。 それは剣────ただの剣ではなく、大剣。


 およそ実戦向きではなく、振り上げることも困難だろう。


 きっと権力を誇示する目的で作られた非実戦的な武器……そのはずだった。


「───ッ! 呪怨パワーだか、怨霊パワーだか知らないけど、ずいぶんと軽々しく攻撃してくれる!」


 豪腕を持って大剣を振るわれる。


 その恐怖は経験者にしかわからないだろう。


 規格外の腕力を誇る亜人系魔物の戦闘は少なくないジェルですら、真っ向勝負は避けたい。


 しかし────


(いや、いけるか? 名刀コテツの武器破壊)


 手を剣に伸ばし、抜刀────するまでもなかった。 なぜなら、怨霊の背後には彼女がいた。


「おい、私の前で大剣を抜いたな?」


 シズク、彼女も大剣使いとして高い矜持を有しているのだろう。しかし、彼女は大剣を装備していなかった。


「────まぁ、大剣使い同士のぶつかり合いはロマンがあって嫌いじゃねえ。けど、ここは瞬殺させてもらうぜ?」


 彼女の魔力は地面に流れていく。


 すぐさま、魔力は怨霊の足元で十字架を描いた。


 その光景にジェルは、思い出す。 彼女――――シズクが古代魔道具から得た武器、防具、魔法の数々。


 その中で、多様する防具は『不可視の鎧』と『不可視の盾』


 それらは『聖騎士ガチャ』で手に入れた物。ならば、彼女は有しているはずだろう。


 聖騎士の力を――――そして、それは破邪の魔法だった。


聖なる十字架グランドクロス


 地面に描かれた魔法の十字架は、怨霊を浄化の炎で包んだ。


「――――」と耳には届かない怨霊の声。 


 だが、わかる。それは断末魔である事を……


 浄化の炎が消えると怨霊の姿は消滅していた。


 おそらく浄化されたのは怨霊だけではないのだろう。 なんと言うか……どこか場違いに爽やかな風が幽霊屋敷の廊下を通り抜けて行った気がする。

 

  

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る