第63話 幽霊屋敷を調査しよう①

 郊外と呼ぶには、それほど町から離れていない。


 それにしては広すぎる土地。貴族……少なくとも建造を命じた人物は、高い立場の人間なのだろう。


 高い壁。 外から眺めても、手入れされずに巨大化した森林が見えてくる。


 壁に沿って歩くと見えてくる入り口。 


 門には鎖が巻かれて出入りができなくなっている。


「さて、どうやって入る?」とシズクは楽しそうだった。


 若干、声が弾んでいるのは気のせいではないだろう。


「この鎖、斬鉄耐性や魔法耐性がある……どうやって錬成したのか興味があるぜ」


「すぐに壊すことを考えないでくれ。流石にギルドから鍵を預かっているさ」


 乱雑に巻かれた鎖の一部。隠されているかのように鍵穴があった。


 そこに鍵を差し込むと、ガラガラと金属音と共に鎖は地面に落ちていった。


 まるで封印が解かれていったように見えた。


「ところで、その鎖は『名刀コテツ』の武器&防具の効果を受けるのか?」


「いや『名刀コテツ』でも斬れないよ。残鉄体制の魔法効果には弾かれ――――」


 そう言ってジェルは、名刀で鎖に触れて――――背後に大きくジャンプした。


「――――あぶねぇ! 触れた瞬間、簡単に切断できるような手ごたえがあった」


「あはははっ……斬れるのかよ!」


 そんなやり取りを交わし、ジェルたちはトコトコと屋敷に向かった(鎖は、自動的に門に巻き付いていった。どうやら、蛇の動きを参考にした形状記憶の魔法がかかっているようだ)。


 屋敷。


 ジェルは、門のドアノッカーを握る。


 訪問を知らせるために金属同士を叩いて、大きなノックをするための道具。 門についてる獅子の頭のやつだ。


 普通は金獅子だが、この屋敷では金色の塗装がされた龍がドアノッカーになっていた。


「純度高めの金が使われてやがる。へっ、その趣味の悪さは気に入るぜ」


 シズクは悪態なのか、誉めているのかわからない事をいう。


 実際には誉めているのだが……


「当然、返事はなし。それじゃ、開けるけど――――シズクは? 何か感じないか?」


「ん? あぁ……嫌な臭いがする。私だけなら引き返してるくらいだ」


「……1人じゃなくてよかったな」


 暗闇が続く屋敷内。ジェルは、前方に『シャイニング』の魔法。


 小さな照明の光が前方に浮かび、周囲を照らした。


「ん、こっちも準備はできたぜ」とシズク。 


 彼女も予備光源のためか、腰に火のついたランタンをつけた。


「さて、幽霊屋敷の探索を始めるなら――――屋敷中のカーテンと窓を開いて進むか」


 1階の探索。 ゾンビや怨霊をいった魔物と遭遇する事はなかった。


「妙だな……」とジェルは呟く。


 しかし、依頼は行方不明者の調査。 この屋敷に入った人間が7人もいるはずなのだ。


「人が出入りした痕跡がない。……と言う事は、行方不明者は屋敷に入った事件で攻撃を受けた。あるいは、そもそも屋敷まで入っていないはずなんだけどなぁ」


「どう思う」とジェルはシズクに促した。


「う~ん、行方不明者と私たちの差異が何か……魔法による光源が弱点なのか。あるいは――――」


「あるいは?」


「決まってるぜ? 私たちにビビって出てこないかだろ?」     

  

 そんな冗談なのか、わからない事を言いながらシズクは、


「1階には、何もない。それじゃ2階に向かおうぜ」と怪談に向かった。



 

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