第62話 金策の誤算④
人目を避けるように外套のフードを深く被り、顔を隠していた。
ジェルは、反射的に窓を見る。
いつの間にか日は暮れて、時間帯は夜になっていた。
(冒険者ギルドの人間が、個人的に冒険者の部屋を訪れる。それも夜となれば人目は避けたくなるだろうが……)
警戒心を高めながら、受付嬢を室内に招き入れた。
「誰だった?」とシズク。彼女は、すぐに受付嬢だと気づき「なぜ?」と首を傾げた。
すると――――
「やはり、シズクさんと同室でしたか。しかし……ベットは2つ。まだ、爛れた関係と言うには致していないと感じでしょうかね?」
「えっと?」とジェルは困惑した。 冒険者ギルドで働いている彼女の姿からは想像できないほどの鋭い視線を走らせていたからだ。
「はっ!」と正気に戻ったらしく彼女は――――
「失礼しました。少々、趣味の側面がでてしまいました」
「はぁ……」とジェルは気のない返事。
普段よりも挙動がおかしい。なにより――――
「それで? 何が目的でいらっしゃったので、お嬢さん?」
シズクが微笑む。なにか面白い物を見つけたかのようだった。
「はい、これはギルドに新しく届いた依頼です」
「これは、依頼書? まだギルド公式の請負印が押されてないようだが?」
「はい、問題は内容なんです。これはジェルさんたちに大至急お伝えしなければと参りました!」
「そんなに?」とジェルは依頼書に目を通して行った。
「推奨はB級冒険者……なるほど、レオたちが町を出た今は、俺たちが最優先に回される案件ということか」
「それもそうですが、依頼内容をじっくりと確認してください」
「ん?」と見直す。
(依頼内容は――――屋敷の調査か。持ち主が死亡して債権回収……要するに借金を残して死んだ人間が所有していた家を売っぱらって、借金返済に足しにしようとしてるわけか……いや、待てよ、これは)
「気づきましたか、ジェルさん?」と受付嬢は謎の笑みを浮かべていた。
「あぁ、借金取りたちが屋敷に入って行方不明になっている。それも――――多いな。7人か?」
「え? そう言えば、そんな事を書いてましたね」
「ん?」とジェルは受付嬢の態度に違和感を覚えた。
「強制的に難易度の高い依頼を事前に知らせ来たのではないのか?」
「そうですが、重要なのはここですよ。ここ!」と受付嬢は指摘する。
「なになに? 依頼達成の報酬は――――」
報酬として書かれているのは、金額はもちろん……他にも貴重な素材や珍しい武器&防具。それに――――
「行方不明者の救出。原因の調査……それらの成功報酬に屋敷そのものが安価での譲渡が入っている」
「そうです! ジェルさんとシズクさんが新居を求めていると聞いて! 推しのカップリングの愛の巣作りに協力できると思うと、仕事を抜け出してでもお伝えせねばならないと高い使命感に背中を押されてきたわけです!」
「真面目に仕事をしろ! 冒険者ギルトに帰れ!」
ジェルは、前半の言葉を聞こえなかった振りをして、怒鳴った。
そんな2人の様子にシズクは、ジェルの手から依頼書を奪い、目を通して行った。
「……シズク?」とジェルは不安げに彼女を見ると、シズクは悪戯を思いついた子供のような顔を見せ、
「悪くない、この依頼を受けて見ようぜ?」
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