第79話 遠征にケンタウロスの群れ

 冒険者の遠征。 遠征に明確な定義があるわけではない。


 冒険者ギルドからの依頼の結果だったり、


 個人的な魔物退治


 手に入れた魔法の地図に記させた財宝探し


 冒険者が冒険者と言われる由縁。 遠征とは、まさに冒険である。


 そんな遠征にジェルたちは向かっていた。


 ゴトゴトと悪路を馬車で疾走する姿は危なげを感じさせる。


 馬車を操る従者は乗っておらず、代わりにシズクが手綱を握っていた。


 御者席ではジェルの体が上下にポンポンと跳ねていた。


「おい、シズク……せめて、もう少し安全運転で頼むぞ。こうも乗り心地が悪いと休めに休めない」


 しかし、シズクは、「黙れ!」と言葉を一蹴して、背後を指差す。


「あんなのに追いかけられてのんびりしてんじゃねぇ! せめて攻撃しろ!」


 ジェルたちの馬車より後方。 彼女が言う「あんなの……」とは?


 ケンタウロス。


 それも1匹、2匹ではない。何十匹も刀剣を手にして武装している。


 さらに、その背後にはケンタウロスではない普通の人間が騎乗。


 ――――いや、正確にはケンタウロスの背に立ち乗りして弓矢を構えていた。


 こんな悪路と速度で、立った状態で弓矢を構える。 どのような鍛錬を積めば可能だろうか?


「ただの盗賊じゃなさそうだな。 何者だと思う?」


「どう見てもケンタウロスの武装集団だろが! 問題は、なんで私等を襲っているかだ!」


「察するに、どこか入ってはならない聖地にでも足を踏み入れたか……あの怒り方は、禁忌に触れたぽいな」


「冷静に察するな。この速度であの数だ。接敵を許すと、一気に馬車を持っていかれる津波みたいなもんだ。その前に――――蹴散らせ!」


「やれやれ、弓の扱いは苦手なんだけどなぁ」とジェルは弓の弦に力を加える。


 無論、ただの弓矢ではない。 古代魔道具である自動販売機から購入した特別品。


 その特別な能力は、精度と飛距離にある。


 弦から放たれた矢は、ケンタウロスたちとその乗り手の腕だけに突き刺さる。


 その技はまるでエルフの魔手が如く――――ダメージを受けたケンタウロスは失速していった。


「よし、これで――――」


「いや、まだだ」とシズクはジェルの言葉を切る。そして――――


「すまない。先回りされた……ありゃケンタウロスのボスだぜ」


 彼女の言葉通り、疾走する馬車の横からケンタウロスが飛び出す。


「コイツは、今までのケンタウロスよりも明らかにデカい! まさか――――」


 ジェルが警戒したのは『特別怪物エクストラモンスター』の可能性だった。しかし――――


「いや、違うぞ、ジェル。コイツ、シンプルにデカくて強いだけだ」


「ソイツはありがたい。できたら、この状況を打破できる情報だったら、もう少し感謝を割り増ししてたぞ」


「へっ、言ってろ」とシズクは笑った。 


 この状況――――高速走行中に馬鹿デカいケンタウロスに襲われ、もしも馬車が横転させられれば、後続の群れに飲み込まれる。


 そんな状況で笑い合うジェルとシズクの二組。 それをはどうかんじたのだろうか? 


「解せぬ」と彼女は――――ケンタウロスは言葉を発した。

 


  


 




   

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