第42話 一方、レオたちは――――④

 ドロシーは魔力を集中する。


「アクアボール!」


 短詠唱。


 本来は体内から生み出される魔力、あるいは外部から魔素を吸収して執行する水属性の攻撃魔法。


 しかし、ドロシーは魔力から水を生み出す工程を省略する。


(操るのは地面の水。全てを操る必要はない……同時に風属性で、水の動きを遮断して……)


 地面の水。まるで透明な四角の仕切りがあるように、水の一部だけが浮かび上がる。


 ドロシーが魔力を流した箇所から水は無くなり、地面が露わになった。


「ここに足跡があるとは限らない。私たちやジェル以外の足跡の可能性も……」


 ここにきて、抜け落ちていた可能性を考える。


 何日も消えずに、ジェルの足跡が残っているかもしれない。でも、それは他の冒険者たちの足跡も同じだ。 


(い、今まで、この迷宮にどれくらいの冒険者が足を踏み入れたのかと思うと……)


 だが、意外なほどしっかりとシオンが口にする――――


「問題はないはずだ。ジェルは斥候としては有能……初心者とは足跡も違うはず」


「そうね。それに――――」


「あぁ、足を斬られたジェルが生き残ったのは、古代魔道具だけじゃない」


 レオ、彼が言うには、


「この水嵩……傷口が濡れれば止血もままならぬ。その状態で遠くまで歩いたとは考えられない。増して有能な斥候なら、そんな選択肢は取らない」


「え? それじゃ……もしかして?」


「その通りだ、ドロシー。目的地は――――この近くに隠されている」


「そんな――――そんな足跡、どこにもないじゃない!」


「考えろ。考え続けろドロシー……不自然な足跡を見つけろ。例えば――――」


「例えば?」


「岩壁に向かっている足跡。あるいは岩壁から突然、現れている足跡だ!」


「ここ! 壁で隠している? どうやって中に――――」


「任せろ」とシオンが飛び出した。


 岩の壁。それに向かって剣を走らせる。


 通常、岩の塊は斬れない。 剣で叩けば剣が折れる。


 だが、そんな常識なんぞ切り裂くほどにシオンの技は異常だった。


「壁が斬れた……シオン、以前よりも技のキレが増してきている?」


 そして、壁の向こう側。 空間が広がっていた。


「――――ッ! シオン、ドロシー、警戒を強めろ。公にされてない空間だ……何が出るかわからないぞ」


 初心者向け迷宮。


 多くの人間が訪れる場所で、長く発見されて空間。


 何が出るか? 緊張が一気に高まっていく。


「レオ、光が……」


「あぁ」とレオは頷く。 


 前方に未知の光。それが徐々に大きくなり――――


『力が欲しいか? 対価を差し出せ、さらば与えん』


 謎の声。 


 声の正体は――――― 古代魔法具アーティファクト 自動販売機


    


  

   

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