第132話 地下1階の攻防
ジェルはゾンビたちを蹴散らした。
しかし、彼にとって想定外だったのは、その数だった。
「……人が数百年も踏み込んだ痕跡がないはずだったが、どうやってこれだけの個体数を維持していた? ミイラにすらなってないぞ」
100を超えるゾンビ。斬られても、斬られても、襲い掛かって来る。
攻撃の手を一瞬でも止めれば……
「なら、これは効果があるかな?」
一瞬の隙。 ジェルは鞘から1本の刀を抜いた。
その刀の名前は――――妖刀ムラマサ。
刀身を見た者を魅力して、心を狂わせる。
「食欲という本能が攻撃の引き金になっているゾンビ……だったら、心がないわけじゃないだろ?」
ジェルは妖刀ムラマサを地面に刺した。
ゾンビたちは視線をジェルから外した。 抗え切れない本能は、食欲から別のものに切り替わったかのように――――ムラマサに襲い掛かって行った。
自ら肉体が切れていくいくにも構わず、ゾンビたちは口を広げてムラマサに噛み付いて行く。
離れた位置に移動したジェルは――――
「やれやれ、汚いなぁ。持って帰る俺の身になって欲しいのだけど……」
その手には『魔王の魔剣』 ジェルの魔力が、魔剣の刀身に吸収していく。
そうして、生まれた輝きは紫色に剣を変える。
一振り。たった一振りでゾンビたちの姿は消滅していった。
その場に残ったのは妖刀ムラマサだけ。
どういう理屈だろうか? ゾンビたちを滅ぼしてみせた威力に反して、ムラマサには無傷だった。
「人の気配がない場所でゾンビの大量発生か……人をゾンビに変えたというよりも、ゾンビそのものを生み出す何かがあるということか?」
ジェルは名刀コテツを構えた。 この場に残って、下の階層に進むため手段を探すよりも、床を切り裂いて地下2階に進む方法を選択しようとした。
しかし、その直前で気づいた。
「あれは、さっきまでなかったはずだが……何か仕掛けがあったのか?」
壁に何かがあった。 それは紐によってぶら下がっているカード。
「なになに……『見学許可書』か。罠の臭いが酷いが……あえて、踏み込んでみるか?」
ジェルは、それを首に下げると来た道を戻った。
「おかえりなさい。どちらへ参りましょうか?」とエレベーターの声。
「これで下の階に行けるか?」と手にしたばかりの『見学許可書』を見せつける。
「はい、そちらで地下2階と地下3階の見学は可能となります」
「ん? その下にある地下倉庫には行けないのか?」
「はい、倉庫には商品が保管されているので関係者以外は入れないようになっております」
ジェルにとって本命は、倉庫に保管されているだろう魔道具『自動販売機』の調査なのだが……
「まずは実験施設か。嫌な予感がするな」と言葉とは裏腹にジェルは、楽しそうな顔に変わっていた。
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