第60話 金策の誤算②
コカトリスは人間に対して怒りを感じていた。
猛毒を有していた強者。
だが、卑劣な罠によって、捕縛された。 それも弱者である人間どもにだ。
人間に支配され、愛玩動物のような扱いを受けた。とても許せることではない。
だから、隙を見つけて脱走したのだ。
皮肉にも、人間に与えられた豊潤な食糧。加えて適切な運動は、彼を通常のコカトリスよりも大きく強靭な肉体を与える事になった。
だから、彼は誓う。
今後、人間に囚われる事もない。 人と出会えば、人を殺す。
そんな生物になる。
そのはずだった。しかし――――
「来い!」とシズクは構える。 まるでここを噛めと言わんばかり、右腕を突き出している。
誘われるように蛇の形状をした尻尾を飛ばして、腕を噛み――――
「違う。何度も言っただろ」とシズクは、手刀で蛇の頭部を叩いた。
「いいか? 毒があるのは牙だ。 ならば噛むという動作を省略して、牙で傷をつける事を考えろ。もう一度だ、さぁ来い!」
まるで戦い方の指導するようなシズクだった。
挑発と受け取ったコカトリス。
本体、鶏で肉体で飛び上がり、間合いを詰める。
人間の非力な体なんぞ、容易に貫けるはずの突き。
しかし――――
「一撃、一撃に力が込められている。いい攻撃だ――――しかし、お前には一撃必殺と言える技がある。敵の下半身を攻め、意識を下に集中させて上から尻尾を振るえ!」
立っている。
防御もせずにコカトリスの突きを無防備に受け続け、ダメージを受けている様子もない。
怪物以上の怪物……コカトリスは、相手の脅威度を上げた。
その時だった。 少し離れた場所で待機をしていた人間が声を上げた。
「おい、シズク。魔物を鍛えながら戦うのはいいけど、遊び過ぎだ。時間がもったいない」
「はいはい、それじゃ終わらせるぜ」
その後のシズクの動きは一瞬だった。
素手での手刀。 切れ味なんて存在しない手によってコカトリスの嘴は切断。
まるで名刀のように切口は滑らかであった。
シズクの動きはそこで止まらない。
手刀を振り下ろした動作から動きを止めず、体を横回転。
素早くコカトリスの背後を取ると、尻尾を掴む。
それでも、蛇の形状をした尻尾は顎を開き、シズクを噛みつこうとする。
だが、シズクはそれを狙っていたのだ。
大きく開き、自身に向かい来る牙。 その毒牙を、正確に指で摘まむと、一気に――――その全てを素手で抜き去ったのだ。
「ほい、無効化したぞ」とシズクは、コカトリスの頭部を抑え込んだ。
ヘッドロックで制圧しながら彼女は、
「コイツ、ギルドで捜索願い出てたよな? 依頼を受けてない場合、報酬はどうなるんだ?」
「う~ん、報酬は出ると思うよ。正当な依頼達成の時よりは少額になると思うけどね」
「それでも薬草集めとか、香辛料より早くて儲かるだろ?」
「やれやれ」とジェルは深いため息をついた。
「無理難題から逃げるために無難な依頼を消化しようって話、聞いてたか?」
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