第29話 目標に向かって前進

 レオたちとの戦い。


 あの後、レオが倒れて1人になったドロシーは戦意喪失。

 

 レオたちは町を離れ、別の場所で冒険を再開するという。


 しかし────『妖刀 ムラマサ』


 その効果は肉体よりも精神に深いダメージを斬り残す。



 例えばシオン────剣士である彼女が見せられた全ての指を切り落とされるという悪夢。


 失ったはずの指が実在するという矛盾。そこには現実と精神の解離が発生する。


 かつてのように剣が振るえるようになるか? それとも――――


 ならば、レオ・ライオンハートは冒険者として復帰できるのだろうか?


 迷宮で仲間を殴り殺したという幻影。 持ってしまったゴブリンへの恐怖心。


 それを克服するのは――――


「おい、なに黄昏れてやがる」


 背後から気配を消したシズクに蹴られた。


「痛たたた……なんだ、シズクか。気づかなかったよ」 


「おいおい、剣聖と同等の能力がありながら、この程度の不意打ちを受けるのか? そんなに腑抜けちまって大丈夫か?」


「……なんて言うか、不思議な感覚なんだよね」


「いや、皆まで言うな。アレだろ? 少しくらいは恨み辛みをぶち撒けてやろうと思った相手と戦ってみたら、戦う事でスッキリしちまって遺恨とか忘れちまってた感じだろ?」


「俺の考えを的確に言語化してくるね」


「ちげぇよ。なんとなく当てはまりそうな言葉を適当に並べただけだ。気をつけろよ? コイツは詐欺師の手口だぞ すごい私の気持ちをこの人はわかってくれるっ! ってな」


「へぇ~ すごいな」と隣に座るシズクを見た。


 彼女はゴブリンだ。 とても、そうは見えないが……


「あっ! ジェルくんさぁ……私たちの目的を忘れてないよね? ちなみに私は忘れてたけど」


「え? 目的……あっ!」とジェルは思い出した。


 世界中に存在している古代魔道具。 それは人知を超えた力を与えてくれる。


 その在りかをジェルとシズクは共有している。


 2人は、それを発見。利用する事を目的に手を組んだのだ。


 その、まず第一歩としては――――


「そうだよ! 金儲けだよ! 古代魔道具を見つけてけも使うのには金がいるんだよ!」     


「ちょ、シズク! 声が大きい。誰が聞いているわからないから」


「あぁ、すまない。 私は魔物だからな、金儲けの知識に疎いだよ」


「わかっているさ。だから、人間のフリをして冒険者になりたいんだろ?」


「あぁ、私は手下のゴブリンを自由に使えるんだぜ。初見の迷宮だって余裕じゃん!」


「まぁ、そうだな」とジェル。 


 そもそも、ジェルがレオたちと戦った理由は復讐目的だけではなかった。


 レオはB級冒険者。 その上のA級冒険者になると、世界でも数える程度しかいない。


 レオは、冒険者界隈に強い影響力があった。 冒険者界隈の権力者のようなものだ。


 一方、自分はレオに迷宮に殺されかけた『底辺冒険者』


 迷宮で殺したはずの自分が生きて帰り、新しい仲間と共に冒険者に復帰。


 レオに取ってみたらいい気分はしない。きっと、妨害をしてきただろう。


 だから俺は――――

 

 

 



 


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