第96話 奇襲 その正体は?

 ジェルたちから離れた位置。 気配を殺す黒い影が複数あった。


「どうする? ジェルのやつ、変に注目されちまったぞ」


「……大丈夫。彼らの目的は古代魔道具。ジェルくんも人目につかないように行動するはず」


 前者はレオ・ライオンハート。 後者は黄金のアスリン。


「そうかなぁ?」 


 しかし、アスリンの言葉に異論を唱える者もいる。


「それはジェルたちが、古代魔道具を秘密にしたがってるってのが前提でしょ?」


 ドロシーは言った。


「今、まさに上級冒険者たちとコネクションができようとしている。やるなら、今でしょ?」


 彼女は魔法使いであるが、それと同時に研究機関である『大学』の出身者だ。


 先ほど、ジェルたちに霜の将軍フロスト・ジェネラルを大学で調べてもらうように勧めた冒険者がいた。 その影響も0ではないのだろう。


 事実、彼女は――――


「そもそも、『大学』が隠し部屋に興味を持ったら、多くの研究者がここに送り込まれてくるはずよ? それじゃ、発見させるかもね――――古代魔道具『自動販売機』の存在を」


 挑発するような言葉。 それに黄金のアスリンは意味ありげに頷いた。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


 最初にそれに気づいたのはシズクだった。


 彼女は、他の冒険者たちに囲まれ、霜の将軍フロスト・ジェネラルについて質問攻めされていた。


 本来ならば、シズクは他の冒険者と交流を持とうとはしない。 彼女の正体が魔物であるからだ。


 しかし、彼女を取り囲んでいる冒険者たちは上位冒険者。 


 戦闘においての質問は、彼女にとっても意外な視点からであり――――


(不思議だ。自分の戦闘を言語化して伝えるのが、こんなにも面白いなんて)


 そう思っていた。 いや、そう思ってしまった。だから――――


 だから、敵襲のタイミングに反応が遅れた。


「危ないっ!」と冒険者たちを押す。 上位冒険者たちはシズク以上に反応が遅れていた。


 なぜなら、敵から発せられるものに殺意とか、悪意や敵意といった感情が乗っていなかったからだ。


 上位冒険者であっても反応ができない攻撃。


 逆を言えば、この状態を――――シズクが冒険者たちに囲まれて、身動きが制限されるこの状況を狙った。 その事実がシズクを不愉快にさせた。


「このっ! この攻撃は知っているぜ!」


 シズクの魔剣は、相手の攻撃に反応するカウンター特攻型の魔剣。


 格上の冒険者たちの誰よりもシズクの反応が早かったのは魔剣の効果によるもの――――


 さらに魔剣の効果と言うならば―――――


 シズクは敵の攻撃を、自分を狙って高速で飛来してくる鋼鉄の物体を剣で切り払った。


 距離も、時間も捻じ曲げてカウンターを決める魔剣。


 それは、周囲は人に囲まれ、身動きできない状態であっても、誰にもぶつからず剣を振る事が可能だった。


 攻撃に対して、剣を振ったという事象だけを起こす。


 周囲の冒険者たちは、その魔剣の技に驚かされるも―――――


「攻撃だ! 遮蔽物を――――前衛は、後衛を守れ!」


 素早く、対抗すべき陣形を作る。その中、合流したジェルとシズクは―――――


「ジェル……覚えているか?」


「うん。あの攻撃は、古代魔道具だ。ケンタウロスの狙撃――――彼女が、ここまで追いかけて来たなんて……」


   


  

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