第104話 ジェルとレオの物語 ②
剣と剣がぶつかり合う。 それは、すなわち――――
バインド勝負
剣の刃と刃は噛み合う。 刃同士が交わると、そこで固定されて力勝負となるのだ。
加えて――――ジェルが仕掛ける。
一瞬の力の揺らぎ。それを感じ取ったレオの力が増していく。
そのタイミングを狙う。 前に出ようとするレオの動きを利用して、左右――――あるいは下から上に向けて――――
「投げ技だとッ!」とすぐさまレオが反応。
バランスと整え直し、ジェルの投げを拒否した。
「体幹が強すぎるのか? それに反射神経だけで投げを無効化して見せた?」
ジェルとレオ。 互いに互いの技と肉体に驚愕する。
驚きから、精神が帰還したのはレオが速かった。
蹴り。
剣と剣をぶつけた状態で前蹴りをジェルに放った。
避けれるはずもない一撃。ジェルの肉体は、凄まじい浮遊感に襲われ、後ろへ下がる。
鍔競合いに似て非なるバインド勝負は互いの肉体が離れたことで終わる。
間合いが離れる。ジェルとレオの両者は――――
呼吸を忘れていたかのように欠如していた空気を肺へ取り込む。
熱を抑えるための汗が遅れて湧き出ていく。
休憩時間とも言えない僅かな回復時間。 呼吸は1つ……2つ……3つ……いや、3回の呼吸が終わるよりも早く、互いが動いた。
警戒すべきは体力勝負。 腕力勝負。
先ほどのバインド勝負のように、技が関与する余地があれば、ジェルにも勝機がある。
だが、純度の高い前衛戦士であるレオは、巨大な魔物を相手に盾と鎧だけ……あとは自分の腕力だけ魔物の動きを封じ込んできた。
もはや、その腕力は人類とは別次元の存在だと言える。
(だったら、どうする? どうやって戦う?)
ジェルは必至に考える。 脳を回転させる。
思考に頭が高熱を感じる――――いや、それは錯覚だ。
なぜ、ならジェルの思考は刹那の時間で動き続けているのだから、熱を感じるよりも早い。
レオの一撃。 それをジェルは回避する。
一気に防戦に追い込まれたジェルだったが――――その光景は奇妙。
およそ人間とは思えない速度領域でジェルは、レオの周辺を飛ぶように動き回る。
その速度の翻弄され、レオには焦りが見える。
――――いや、レオの周囲を飛ぶように動き回る?
違う! 実際に飛んでいるのだ。
飛翔魔法。
ジェルが持つ魔法の才能――――つまりは魔力の精密操作。
それは空を飛ぶと言う本来の魔法を捻じ曲げ、接近戦で高速で移動し続けるという――――もはや、魔法ではなく技として昇華させたのだ。
「こ、このっ!」とレオの剣はジェルには当たらない。
代わりにカウンターで刺突が放たれる。
剣。
頑丈な鎧に身を守られているレオであるが、打たれればダメージは刻まれていく。
剣は刃物として殺傷能力がなくとも鉄の棒である。
その刺突は、致命傷にならなくとも衝撃と共に痛みを打ち付けていく。
「――――っ! この――――」とレオは言葉が続かない。
辛うじて、無防備である頭部だけはジェルの刺突から防御及び回避に徹底している。
(反撃……その方法が思いつかねぇ。負ける? この俺がジェルに2回も? あり得ねぇ……あり得ねぇだろうが!)
レオの選択はシンプルだった。
頭部を狙うジェルの刺突。 それに合わせて、防御も回避も捨てる。
ギリギリ……僅かで良い。 ダメージを受けて生存できるギリギリのライン。
すなわち――――死線。
死線を超えた先の一撃――――その一撃を狙って――――レオは拳を握る。
そのため、すでに剣は捨ててある。 剣を操るよりも――――
「殴った方が速いからな!」
剛腕。 狙いに狙った拳による一撃がジェルの体を捉えていた。
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