008:魔獣料理
「よし! 魔獣の肉を使った食事に挑戦だ。火は無い。調理用品もない中での料理開始!」
材料は……
『解体した魔獣肉』
以上。
とりあえず魔獣肉を洗う。殺菌を意識して『緑水』を出来るだけ高温にして洗った。
魔獣肉がほんわりした緑の光に包まれる。
「……キレイな肉」 ──思わず呟いた。
「うん。これならいける気がする」
「大丈夫だと思うよ。私たちドライアド族は肉は食べないけど、その力で洗って体内にエネルギーを取り込むから」
空腹感が最高潮に達していた。強い空腹が生肉への抵抗を薄めたのか、一気にかじりついた。(空腹は最高のスパイスである!)
「う…… うま…… くはないな」
おなかは痛くないし毒にやられた感じもしない。そこから一気に解体した魔獣肉を全て平らげた。
『デキマウスを知った』
こんな言葉が脳裏に浮かんだ。 ……この時はまだ何を意味するのか分からなかった。
洞穴までの障害を取り除き、目標地点に向かって走った。
洞穴の中はそんなには広くはないものの、雨風を凌いで身を隠せる絶好の場所である。
ここを拠点にして周辺を調べることにする。拠点と言っても荷物は何もない。居場所を決めただけというのが正しいのかもしれない。
しばらくはこの周辺を探索して、自分のレベルアップに励む。魔獣と戦うことになっても必ずアナウスが倒してくれるとは限らないのだから。
それにディスプが使えないので自分のレベルを確認出来ない。分からなくても現状は問題ない。なぜなら僕は一度も戦っていないのだから。
周囲を探索していると地面から魔獣が現れた。地中まではマップが対応していないのか、出現するまで全く気付かなかった。
この魔獣は、ハリモグラ Lv13
ハリネズミのように毛を逆立て何十本もの鋭利な毛針を飛ばしてくる。大量の毛針をアナウスが全て撃ち落とし、僕を外した毛針は地面や岩に深く突き刺さる。
タイムラグはあるが、ハリモグラの毛は自動再生されるようだ。攻撃が通らないせいか怒ったハリモグラは毛針を全て逆立てウニの様に丸まって楕円形になる程の勢いで転がってきた。
パシュン ──アナウスがハリモグラを切り裂いた。
どうやらアナウスは、ある程度の間合いに入った敵意あるモノを攻撃するようだ。
『ハリモグラを知った』 脳裏にまたそんな言葉が浮かんだ。
倒した魔獣はしっかり解体して肉を切り分けておく。
ドウモイコウモリ、トカゲストーン…… アナウスの協力により魔獣を倒しては解体して肉を切り分けて魔獣料理を作っていくのだ。
せめて調味料か味の違いを感じさせる何かがあれば違った物が作れるのだが何もない。せめて火が使えれば焼くことも出来るし、『緑水』を使って煮る蒸すなどのレパートリーも広がる。
せめてもの救いは魔獣肉の味が倒した魔獣によって少し違うことだ。大好物だったトンテキ定食が懐かしい……
「ドリアラ。この世界に食用の動物っているの? 豚とか牛とか」
「うーん。分からない。 ドライアド族は禁忌ではないけど肉を食べる人は居ないからね。 でも、動物は沢山いたよ。豚とか牛ってどんな動物?」
「両方とも四足歩行の動物で、豚は鼻が上を向いて穴が丸見えで鳴き声はブーブー。牛は白と黒の模様があってモーとなく動物だよ」
「ああ、それはきっと豚と呼ばれる動物はタブで牛はシウね。 シウから取れる乳が美味しいのよ」
「その乳って真っ白? 牛乳かな」
「うん。真っ白な色をしていて、シウ乳って言うの。他にも空を飛ぶリトや、毛を織って服にするジツヒとか、いろんな種類が居て…… ここは生き物の宝庫だったの」
どうやらこの地は緑で覆われた豊かな国であったようだ。様々な動物が暮らして植物系であるドライアド族と共存をしていたという。
その後も周辺の探索を続けて魔獣と戦い続けた。毎日毎日戦っては解体して肉を食らった。しっかりお風呂にも入った。
魔獣と戦ったと言っても全てアナウスが一撃で葬り去るので、実際は僕が倒したのではないが、恐怖に打ち勝つという結果を求めて何匹も何匹も戦いを挑み続けてきた。
……そして、アナウスを使った戦闘にも慣れ、恐怖にも打ち勝つようになったころ僕は拠点を離れて先に進むことを決意した。
この頃にはアナウスの力を自分の力と錯覚するようになっていた。
【物語解説】
ドウモイコウモリ Lv18 ドウモイという神経毒を吐き相手を混乱させる。時折記憶を失う事もあるという。 基本的には夕~夜にかけて出没し明るい時は見かけない。
トカゲストーン Lv13 この魔獣の爪に引っかかれると、石化すると言われている。 しかし自分より強い物にあ石化はきかない。 尻尾は丸焼きにして食べると美味で、尻尾に再生能力があるのでペットにする者もいると言う。
なぎさは高熱のお湯を出せるので、魔獣の肉に熱を加える事は出来るがこの時は気づいていなかった……
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