114:ウタハの植物講座
『ツッカイ』
──バチ王国に属する都市。大きなイナバ湖をもつ観光地であったが、荒れ果てたことによって観光客が激減。その穴を埋めるように高性能な資材を生み出す街として有名になり、商業都市バチ王国の建築資材を担うようになった。──
ツッカイは洋風の工場町といった雰囲気。レンガが積み上げられた建物に倉庫や工場が軒を連ねる。鍛冶職人など職人の風貌をした人が多く、買い付けにきたであろう商人が見て回っている。
「こちらでお待ちください」
一際大きな建物の一室に通された。部屋の中はレンガ造りの外観からは想像できないような洋風の内装でお屋敷のようなオシャレな造り。中央にある円卓の周りには数十脚の椅子が並び、その一角に座らされた。
「なぎさ、なんかすごい所だね」
「確かに、こんなに立派な街に来るとヨクサを思い出しちゃうね」
「凄いのじゃー、あっちもこっちも凄いのじゃー」
5階の窓から見える景色。ポツポツと同じような建物が見えるが、窓越しに見える多くの部屋は同じように素晴らしい内装がチラリと見えたのに興奮したのかユニが窓を移動しては、はしゃいでいる。
ガチャッ
観音開きの扉が開かれ、湖で見かけた男たちと同じ茶色い法被を羽織った夫婦が入って円卓の上座に座る。
「ようこそおいで下さいました。わたしはツッカイ5本組合長の1人『カイブル』といいます。こちらは妻の『ウンネ』です」
「なぎさといいます。リリスにユニにウタハにアカリです」
「あなたたちは体や薬草について詳しいと雑多衆(ざったしゅう)に聞いたのですが、私どもの娘を診てはいただけないでしょうか」
「一体何があったのですか」
……カイブルの話によると、この村で特殊な力を持った子供が5つの組合にそれぞれひとりづついる。組合ごとに力が違い、その力を使う事で素材の価値を上げた商品としているのだが、娘の『モンリ』が数か月前から病に倒れてしまったようだ。
「原因は分からないんですか?」
「はい。この街に住む医者が言うには湖に自生する薬草が必要だと言うのですが、湖はあなたがたが見た通りの惨状でして」
バックから薬草をひとつ取り出す。サムゲン大森林に自生している普通の薬草。
「これですか?」
「こ……これは……。一体どこで」
「サムゲン大森林に自生していた薬草です。いたって普通の薬草なのでどこの街にでもあると思うのですが──」
言葉を遮るようにウタハが語りだした。
「なぎささん、これは茯神(ぶくしん)キノコ草ですね。薬草と言っても色々あって一般的な薬草は『メディハープ』です。効能は同じなんですが、茯神キノコ草の方がかなり効果は上なんですよ。サムゲン大森林にのみ自生している薬草ですね」
「ウタハちゃん、詳しいわね」
「もちろんです。昔から植物のことなら何故か分かるんですよね~」
「ウタハ、そんなに詳しいなら今までなんで黙ってたのじゃ」
「だって、聞かれませんでしたし、知識をひけらかすみたいで恥ずかしいじゃないですか」
「ウタハ、もっと早く言ってくれればいままでもっと早く解決できたんじゃないのかな」
「ハハハ……」 ──笑って誤魔化すウタハ。ユニは睨むように見ている。
「あ、あの……。わたしたちの話は……」
「あ、すいません。でも不思議な話ですね。医者は湖で薬草をと言ったんですよね。この薬草はウタハの話しによるとサムゲン大森林にしか自生していないということですが」
「あ、あの……、いいですか」
申し訳なさそうに手を上げるウタハ
「ウタハ、どうしたの?」
「もしかしたらそれは茯苓(ぶくれい)キノコ草かもしれません。茯神キノコ草よりは少し効能が落ちるのですが、綺麗な水の近くに自生する薬草です。見た目はすごく似ているんですよ。私にかかれば一発で見破れますけどね」
ウタハは得意げに人差し指で鼻を左右にこすっている。
「じゃあ、なぎさの持っている薬草はイナバ湖で取れる薬草よりも効果が上ってことよね」
「そういうことですね」
「じゃ、じゃあ、それを譲ってもらえませんか」
「差し上げるのはいいのですが、ひとつ解せないことがあるんですよ。いくら効果が高い薬草と言っても、高価な薬なら商業都市であるバチ王国にいくらでも売っているんじゃないんですか。これほどのお屋敷なら買えないという事はなさそうですし」
「ええ、ハイポーションや色々な薬草から抽出したという薬も試しましたがダメでした」
「じゃあなんでこの薬草なら大丈夫なんでしょうね」
不思議に思っていたが、ウタハがそれを解決してくれた。
「それはですね、製法の違いかもしれません。薬草は土から抜いてしまうと1日ほどで効能が抜けてしまうんですよ。だから出回っている薬は効能が抜けないように保存料が入っているんです。保存料で薄めずに煎じれば植物のもつ本来の効能が発揮されますよ。ただポーションだと、体力や魔法力の回復に特化させた薬なのでそれ以外の効能を犠牲にしているんですよ。薬によって毒や麻痺に特化させたりと──」
「ウタハ、ありがとう。もういいよ。ということは市販されている薬は植物本来の力を発揮させるわけじゃなくて、目的に応じた抽出してるってことなんだね」
「ちょっと違いますね。目的に応じた植物があるんですよ。毒ならエキナセア、麻痺ならニューロリ──」
「ウタハちゃん、そこまでで大丈夫よ。じゃあ、なぎさちゃんの持つ薬草を医者に渡して娘(モンリ)に合うように調合してもらえばいいわけでしょ」
「そういうことです。お医者さんがモンリさんの病気を理解して調合すれば一発で治るんじゃないですかね」
「あ、あの……。わたしたちにはサッパリ分かりませんが、医者に渡せば治るという希望がある事だけは分かりました」
「ユニもサッパリなのじゃ」
「私もあまり良く分かりません」
ユニとリリスにも難しかったようだ。僕とアカリは日本での『薬』というものを知っている分理解できたのかもしれない。
「じゃあ、これをどうぞ。お医者さんに持って行ってあげてください」
「ありがとうございます! 早速行ってきます」
カイブルとウンネは薬草を受け取り、僕たちを置いて走って出て行ってしまった。
=====
(番外編)
(な)「それにしても、ウタハは薬に詳しいね」
(ウ)「まあ、薬というより植物ですね。キノコとか地面から生えていればなんでも大丈夫です」
(な)「じゃあ、霊芝草のことも知ってたの?」
(ウ)「もちろんです。霊芝草は万能薬なんですよ。煎じてポーション100本に薄めてもハイポーションと同等の品質が保てる優れものなんです。どちらかと言えば、なぎささんの緑水に近いかもしれませんね」
(な)「じゃあ、僕の緑水は霊芝草を煎じた原液並みの力があるって考えると凄いね」
(ウ)「凄いなんてものじゃないですよ。無限に生み出せるわけですから。ただ、ちょっと考え方が違って、緑水は霊芝草のように『元に戻す』という効能のような気がします。それに緑水の方が力は上だと思いますよ」
(な)「なるほど、だから霊芝草がペルシャの羽衣の汚れを取ったり、僕の緑水が汚れを落とすのは、本来あるべき状態に戻すからなんだね」
(ウ)「そうだと思います。緑水はドリアラ様のもつ植物系回復力の最上位なんですよ」
(な)「と、いうことは……。緑水でベルシャの羽衣はきれいになったということだよね」
(ウ)「そうなりますね」
(な)「じゃあ早く言ってくれれば岬に行かなくても……。でも岬に行かなかったら青魔人の宮殿のアイテムや色々な知識を得られなかった訳で……。返って良かったのか」
(ウ)「ペルシャさんが探していたのが霊芝草だと知っていれば言ってかもしれません。でもそこで教えてもらっちゃってたら……。なぎささんはベオカでもらった霊芝草を渡していましたよね」
(な)「世の中って不思議だね。タイミングで全然未来が変わっちゃうんだもん」
(ユ)「なぎさー、なにウタハとふたりきりで話しているのじゃー」
(リ/ア)「わたしたちもいれてよねー」
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