115:ウンネの事情

 カイブルとウンネは薬草を握りしめて一目散に医者もとへ走り去った。


 残された僕たちは出口に向かって屋敷の中を歩いていた。


 一階で通りがかった大きな扉が開かれ中が見える。奥には大量の木材が積まれて人が忙しく走り回っていた。恐らく巨大な倉庫なのだろう。


「モンリお嬢様が病に倒れてからこの工房も落ち目になったもんだな」

「他の工房は神の子がすぐに回復したんだってよ。魔法で資材もどんどん作れるから景気がいいよな。俺たちもそろそろ身の振り方を考えないと」


 ヒソヒソと噂話が聞こえてくる。神の子……。カイブルが言っていた5人の特殊な力を持った子供のことだろう。


「なぎさ、あそこを見て」


 リリスの指差す先には上流から流れる水を溜める貯水池があった。

 街を割るように流れる大きな川が5個の建物へ支川となって流れ、建物を抜けた先で5本の支川は再度合流して下流(イバナ湖)へ流れている。


「なんじゃあれ……」


 貯水池には大量の木材が沈めら、池の中からポコリポコリと気泡のように黒いモノが浮かび上がって下流へ流れ出ている。

 木材から黒いモノの発生が止まると、水中にある木材は銀色の資材へと変性した。


 ……これはオリハルコン。

 


 全ての建物で同様のことが行われているのか、建物を抜けた全ての支川に黒いものが浮かんでいる。


「ぺルシャの羽衣を汚した正体は、この街で何か特別な魔法を使った痕跡……」


「なぎさちゃん、一体何なんだろうねあれ」


 バックの中から深めの器を取り出して黒いものをすくいあげる。不思議な匂い……どこかで嗅いだことがある気がする。


「これは!」


「どうしたのリリス」


「これ、海底神殿で見たことがあるわ。洗礼の儀……。黒い靄(もや)から滴り落ちる黒い水。アナウスが私の魔力を吸い取ったときの匂いにそっくり。誰かの魔力が吸い取られているのかもしれない……。湖で見た時になんで気付かなかったのかしら」


「リリスさーん。チンプンカンプンですー。まるで、子供たちの魔力を吸い取ってキレイな木を作っているみたいじゃないですかー」


「ウタハちゃん、それよ! 誰かが子供たちの魔力を使って素材を加工しているってことなんじゃないかな。その結果魔力を失った子供が倒れた……」



 ──カイブルが医者を連れて走って来た。


「みなさんありがとうございます! おかげで医者が薬を作ってくれました。みなさんも来てください」


 カイブルたちに連れられるまま屋敷にあるモンリの部屋へ。


 部屋は青を基調としたお洒落な内装で立派なベッドが真っ白なレースで囲われている。レースからは横になっている人影がうっすらと見える。


「モンリ、お医者さんを連れてきたよ。早く薬を飲んで良くなるんだ!」


 レースを勢いよく開きベッドに横たわる少女を抱き起すカイブル。アッシュブラウンの髪色をした少女。見た目はユニと同年齢。医者に手渡された薬をゆっくりとモンリの唇に当ててのませていく。


「(小声)なぎささん」


 ウタハが肘でつついてきた。


「(小声)どうしたんだい小声で」


「(小声)あの薬、なぎささんがあげた茯神(ぶくしん)キノコ草は全然入っていませんよ。もしかしたらハイエーテル(魔法力回復)かもしれません」



「カイブルさん、これでまた良くなるでしょう」


 医者はお代を受け取るとサッサと部屋を出ていった。


「カイブルさん今の薬は……」


 カイブルによれば、この町に住む特殊の力を持つ5人の子供は定期的に病に臥せる。そんな時は、医者に湖に自生する薬草と手数料としてミスリル貨1枚を渡すことで薬をもらい少女を回復させる。


「ちょうど私の娘の番の時に薬草が見つからなくって困っていたんですよ。またモンリが病に臥せたらどうなるか……」


 なぜか分からないが、娘のことよりも違う心配しているように感じる。


 薬を飲んだモンリに付き添うウンネ。母親は安心したような顔でモンリを抱きしめる。心から娘を心配しているのだろう。


「娘さんが元気になったようで良かったです。それでは僕たちは先を急ぎますので失礼します」


「ま、待ってくれ。お願いだ1年に1回でいい。この街に来て薬草を譲ってくれ、金ならいくらでも払う。そうすれば娘が生き続けられるんだ。ウンネもしっかりお願いしておいてくれ。娘が回復したから仕事の準備に取り掛からなければならん。それでは失礼させてもらいます」


 小走りで部屋を出ていくカイブル。残されたウンネは悲しそうな顔をしている。


 ウンネの前までゆっくりとリリスが歩み寄ると驚きの発言が飛び出した。


「ウンネさんこの部屋の隣はあなたの部屋かしら?」


「ええ、そうですけど、それが何か?」


「あなた、天女族ですね!!」


「「「「ええええーーーー!!!! (なのじゃ)」」」」


「りりリリス。それってどういうことだい」


「なぎさ、隣の部屋の扉を見て来てちょうだい。見たことがある扉なのよ」


 モンリの部屋を出たなぎさは隣の部屋の扉を見る……。


「こ、これは」


 見覚えのある扉がそこにはあった。僕が青魔人の宮殿で作った扉と同じ模様の扉。異空間ルームへとつながる扉。慌ててモンリの部屋に戻った。


「リリス、確かに隣にある部屋は異空間ルームへと繋がる扉だ。……そうか、普通に開けば屋敷の部屋。本人なら異空間ルームへつなげることも出来る。そうすれば誰にもバレない」


「あなた方は一体……。なぜ天女族のことを……。何か特別な運命を背負う方々なのですね。わかりました全てをお話しします。こちらへどうぞ」


 僕たちはウンネの持つ異空間ルームへと通された。




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