116:医者のたくらみ
ウンネの異空間ルーム。内装はペルシャより大人っぽいが、造りはウリ2つ。扉の先にあるテーブルを囲うように座るとウンネが話し始めた。
「みなさまは天女族のことをご存じなのですね。しかも異空間ルームへの扉まで与えられた」
「はい。ペリーヌやペルシャ、マーハたちにお世話になったんですよ。異空間ルームの扉もその時にもらいました」
ユニとウタハはペリーヌから渡された黒い指輪(94話)を取り出して見せた。
「それは特定の異空間ルームへと繋げる指輪。王女が最大級の感謝を示す道具……。天女族以外が持つなんて……。天界、天界はどうなったんですか」
「天界はなぎさがペリーヌからもらったのじゃ」
「はぅあ」 ──ウンネは不思議な表情をしている。
「そうなんです。天女族はベヌスの守護者として海底神殿に移住しました」
「ふぃぇあ」 ──ウンネは目鼻口を目いっぱい縦に伸ばした表情をしている。
「ウンネさん。なんか最初の時とイメージ変わっていますが大丈夫ですか」
「すすすすいません。取り乱しました。あまりにも突拍子もない出来事に取り繕った皮がとれてしまいました」
「なぎさちゃん、とりあえず話が進まないからウンネさんの話しを聞こうか」
「アカリごめん。ウンネさんよろしくお願いします」
ウンネの話によると、昔5人の天女族がこの村に辿り着いた。
天界の閉じられた世界に嫌気をさして二度と戻らないと誓い合った5人。工場町として活気があったこの街の男とそれぞれが結婚し子供をもうけた。
5人は異空間ルームを使って愚痴などを言い合い平和に暮らしていた。
しかし5人のひとり、ウンネの母親が一つの過ちを犯してしまった。
工場で作った資材に、軽い気持ちでお礼を兼ねて魔法をつかい資材をオリハルコン化してたのだ。
そこに目を付けた工場主たちは資材1つ1つをオリハルコン化していては効率が悪いので競うように技術革新に取り組み、奇麗な水に魔法を注入することで一度に大量のオリハルコン化を可能とした。
欲に目が眩んだ工場主たちは5本組合長として連合し小さな工場を従えてツッカイを発展させた。
「しかし、大量生産を強制された天女族は魔力が枯渇して死んでしまったのです。次に目を付けられたのが私たち」
「ひ、ひどいです……」
「母親の跡を継ぐように魔法を強制されるようになりました」
ウンネが話を続ける。強制されることで魔法力が徐々に枯渇して倒れてしまう。そこにどこからともなく現れた医者がハイエーテルを飲ませて魔法力を回復させたことで名医としての地位を確立した。
「カイブルは色々な薬を試したと言っていたけど、その中にハイエーテルは無かったのですか?」
「あったかもしれません。薬は全てエイギア(医者)を通していたのですり替えられていた可能性があります」
「イナバ湖に溜まっている黒いのは何なのじゃ」
「分かりません。魔法を注入した水でオリハルコン化をすると漏れてくるのです」
「ウンネさん。これから僕たちは医者の所に行ってみるよ」
「待ってください私も行きます!」
エイギア(医者)の所に向かった。医者のいる建物はツッカイの南。汚染前のキレイな川沿いに建てられたオリハルコン製の立派な建物。大きな1枚扉を開けて中に入る。
「あらウンネさん、今日は大勢引き連れてどうしたのですかな。モンリお嬢ちゃんはさっき治したばかりでしょう。そちらの方々は?」
「初めましてなぎさと言います。少し伺いたいことがありまして」
「なぎさ? どこかで聞いたことがありますね」
「モンリの治療薬として使っていたのはハイエーテルだったようですが。それには持ち込んだ薬草は使われていないようですが」
「それはですね、あなた方の見立てが悪いのでしょう。しっかりと使われていますよ」
「いえ! 絶対に使われていないです。植物のことならなんでも分かる私が言うのだから間違えないはずです。あの薬には茯神(ぶくしん)キノコ草の成分は一切入ってなかったはずです」
「おや、私が持ってくるように言っていたのはイナバ湖に自生する茯苓(ぶくれい)キノコ草と伝えていたはずですが」
「この人は薬草を全然分かってないです。イナバ湖に自生する薬草が枯渇していたから上位の茯神(ぶくしん)キノコ草をなぎささんが譲ったんです」
「そ、そうか……。それであの薬の効果がいつもとは……。あっ」
「なぎさ、この人は嘘をついているわね。やっぱりこの町で悪事を働いているのね」
「リリス、ユニでも話を聞いていて分かったのじゃ。絶対に悪いやつなのじゃ」
「そうか、なぎさにリリスにユニ。エリファス(22話)が言っていた……」
「エリファス。あなたは魔人エリファスの仲間なのか!」
「そうかそうか、お前たちが……。わたしは魔人エイギア、お初にお目にかかる。しかし今回は引かせてもらおう。エリファスを打倒したお前たちに医師であるわしがかなうはずはないからな。それにこの町での役割は充分果たした」
「なぎさちゃん、魔人を逃がしちゃだめよ」
「ユニも逃がさないのじゃ」
入口を塞いでいる僕たちをよそに落ち着いている。別の出入り口や魔法陣による転移の可能性をしっかり考えておけば必ず捕まえることが出来るはずだ。
「よし。こんな話をしてやろう。この町で何が起こっていたのかを」
魔人エイギアは語り始めた。
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