117 組合長の妻と子供

 魔人エイギアは語り始めた。


 イナバ湖に眠る魔神サタンを復活させるのが役割。魔法に特化した魔神を蘇らせるには大量の魔力が必要となるので、この村にいる女たちの魔力を利用しようと欲にかられた男たちをちょこっとつついたようだ。


「技術革新とか言って効率よくオリハルコンを作り出す仕組みに口を出してやったのさ。工場に流れ着く水に過剰な魔力が抽出されるようにしてな。オリハルコン化の余剰な魔力は水と一緒にイナバ湖に流れるって仕組みよ」


「じゃあ、イナバ湖に流れる黒いものは魔力……。洗礼の儀で奪われた私のように吸い取られた魔力」


「しかしバカなのは人間だ。魔力が枯渇して倒れるまでやらせるんだからな。最初の人間は死ぬまで吸われてしまったよ。流石に俺も慌てて魔力を回復させてやったがな。人間の欲のせいで魔力の抽出が途切れるところだったよ」


「え、じゃあ母さんやその友人はあなたではなくこの町の男たちが……」


「ウンネさん、エイギアは過剰に魔力を抽出されるようにしていたのよ。騙されないで」


「リリスと言ったかな。確かにその通りだ。否定はせん。しかしだ、俺は魔力を時間をかけて蓄えるつもりだった。魔力が減ってもしっかり休養をとれば魔力は回復するだろ? 魔法使いの君なら分かるだろう」


「…………」


「話すことは話した。サタン様の復活も果たせたので帰らせてもらう。そういえばなぎさ。お前は鉱石を集めるのが趣味なんだってな、ジアン(青魔人)が言ってたよ。こも建物は特殊な鉱石が使われている。お前に全部やるよ。じゃあな」


 既に魔人エイギアはいなかった。気づかなかったが声の主はピンクの鉱石。ハートブルマニア鉱石に似ているが少し違う。ウンネが近づき見ている。


「これは、マットゥテレ鉱石ですね。バチ王国だとオークションの競売システムで使われています。この鉱石を介せば離れた場所から声を届けることが出来るんですよ」


 この鉱石によって魔人エイギアは語るふりをして逃げながら声を発していたようだ。折角なのでエイギアが使っていた建物を全て素材化してバックにしまった。


「な、なぎささん……。あなたは一体」



 ──空一体に暗雲が立ち込める。激しく鳴り響く稲妻がイナバ湖周辺で巻き起こっているのが分かる。

 町民はそちらの方を眺め不安な顔をしている。地上から天に向かって奇怪な影が浮かび上がったと思ったら一瞬にして暗雲が晴れた。


「ウンネさん。あなたの部屋に行きましょう。できたら天女族のみなさんを集めてもらえませんか」



▽ ▽ ▽

 部屋に集められた5人の天女族そしてそれぞれの子供たち。子供たちは始めてくる場所にソワソワしている。


 これまでの経緯を話し天女族の反応を待った。大人たちは医者が持ってくる薬がハイエーテルだということは分かっていたようだが、医者が魔人であったことや魔神の復活に利用されていたことに恐怖していた。


「お母さん怖いよ。もう魔力を使いたくないよ」


 モンリをはじめ、子供たちは母親に抱き着いて泣いていた。


「そうだね、私たちはこの町の男どもに利用されているだけだということも分かったし母たちのようにみんなで旅に出ようか」


「行く当てはあるんですか?」


 リリスの言葉に腕を組んで顔を伏せている。僕はウンネの屋敷にある絵の前に行って声をかけた。


「ペリーヌ、ペリーヌ。聞こえたら来てもらって良いかな」


 反応するように絵からペリーヌとペルシャが出てきた。絵に描かれている王女と同じ容姿をした女性の出現に何かを察したのかお辞儀をし、子供たちの頭を抑えてお辞儀させていた。


「なぎささんどうしましたか」


「はい、この天女族を海底神殿に移住させてもらえないかと思いまして」


「そうですか。みなさん顔を上げて下さい。わたしは天女族の王女ペリーヌです。こちらが娘のペルシャです」


「ペルシャです。よろしくお願いします」


「あなたたちは……。そう、前に天界を出たマーリンたちの娘ね。そっくりだわ。あなたたちさえ良ければ戻ってきても良いですよ」


「ペリーヌ、ありがとう」


 ウンネが周りの仲間を見回して頷き、みなが同調する。そして一歩前にでた。


「ペリーヌ王女様、お言葉はとても嬉しく思います。わたしたちを天女族の一員として認めてもらえただけで十分です。両親とは言え天女族に迷惑をかけた上にこの町での失態を考えるとそこまでしていただくわけにはいきません」


「それなら天界に移住すればいいのじゃ」


「ユニ、天界はレイナたちがサキュバス族の繁栄に使っているわ(94話)」


「じゃあ、なぎさ島を使ったらどうでしょうね」


 ウタハの提案にみんなが「おぉ」と関心していた。ここならだれからも見つかる心配もない。緑地にすれば普通に生活することも出来る。


「ウンネさん、天女族のみなさん。わたしが所有する島に住んでもらえませんか。何もありませんがせめて落ち着くまで身を隠してください」


「そ、そんな助けられた私たちがみなさんに迷惑をお掛けするわけには……」


「なぎさちゃんが言う通りにしなさい。この町を出て何もないあなたたちに何が出来るの。子供たちの危険も考えて判断しなくちゃだめよ」


 子供たちのことを引き合いに出されたら首を横に振れなかったようで、天女族に揃ってお礼を言われた。


「これで解決ですね。私たちは神殿に帰ります。なにか困ったことがあったら何でも言って下さいね」


 そう言い残し、ペリーヌとペルシャは絵の中に消えていった。


「じゃあ、島に案内するけど町の人に挨拶をしてこなくて大丈夫?」


「大丈夫です。異空間ルームを通じてそのうち書き置きでもしにきます」


 天女族の顔は晴れやかだった。ツッカイを代表する組合長令嬢として作って来た仮面を剥ぎ取って生き生きとした表情で話している。


「じゃあ、なぎさ島にレッツゴーなのじゃ!」


「ユニ、なぎさ島ってのは止めてよ……。恥ずかしい」


 天女族を連れて島に移動したのであった。




===

(番外編)

(リ)「ヨクサに続いてツッカイでも悪い人がいたわねぇ」

(ユ)「そうなのじゃ、なぎさがまた魔神になったらどうするのじゃ」

(な)「ふたりとも、もう手には角がないし魔神にはならないと思うよ」

(ウ)「分からないですよぉ。人生何があるか分かりません。もしかしたら切れたアカリさんあたりが暴れるかもしれませんよ」

(ア)「ウタハちゃん、それはどういう意味なのかしら」

(ウ)「ア、アカリさんどこにいたんですか。トイレに行ったんじゃなかったんですか」

(ア)「驚かそうと思ってコウモリの姿で飛んで来たのよ。まさか悪口を言っているとは思わなかったけどね。これはお仕置きが必要ね」

(ウ)「ごめんなさぁ~い。みなさん助け……あれ? どこに行ったんですか~」

この後ふたりの間に何があったのかは語られることはなかった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る