タナリの神
113:舞い込むトラブル
「ペルシャ、ペルシャ。聞こえたら返事して欲しいんだ」
屋敷にある絵画に話しかけてペルシャを呼び出す。天女族の有する異空間ルームでの通信は絵画によっておこなう (83話)。
「なぎささんじゃないですか! 私を迎えに来てくれたんですか?」
「い……。いや、お願いがあるんだけど、スカイブ帝国にあるペルシャの家に飛ばして欲しいんだ」
「良いですよ。ひとつだけ条件があります。わたし(ペルシャ)にチューしてください」
「…………そ、そんなこと言ったらペリーヌが悲しむんじゃない」
「いえ、お母様もなぎささんとの仲を認めてくれています。これで大手を振って付き合うことができますわ」
目の前にある絵画にペルシャの絵が浮かび上がると、絵画から吸引される風(かぜ)によって絵画の中へと吸い込まれた。
気づくと見知った屋敷の中。
「なぎささんお久しぶりですわ。私を呼ばなくても絵画に念じれば自由にここへ出入り出来ますのよ」
そういえば聞いたことがある気がする。異空間ルーム同士の移動は相手が認めていれば自由に出入り出来ることを。
「ペルシャ、ありがとう。ちょっと急ぎの用があって『タナリ』に行きたいんだ」
「タナリですか。あそこはバチ王国の神が祀られているという街と聞いています」
「ペルシャはタナリのことを知っているのじゃか」
「いえ、霊芝草の情報を集めるときにちょこっと聞いたくらいです」
ペルシャの話によれば、タナリはバチ王国にとって神聖な場所であり犯罪にとても厳しい場所。向かうならツッカイを経由すると良いと教えてくれた。
アンガスはスカイブ帝国にヨクサでの出来事を報告するために戻った。僕たちのことは内緒にしてくれるはず。
「久しぶりにユニが馬を……。角がないのじゃ、ユニコーンに戻れないのじゃー。そういえば武器もなくなっているのじゃー」
ユニがダダをこねるように騒いでいる。リリスとアカリがなんとか落ち着かせる。
「みなさん、それならイナバ湖までなら絨毯で送りますよ。それ以上町に近づくと魔法の絨毯が見つかっちゃいますからね」
ペルシャの好意に甘えて魔法の絨毯でイナバ湖まで運んでもらった。揺れることもなく滑るように進む絨毯。全身に感じる風が心地よくて眠気に襲われる。
「それじゃあなぎささん。今度会った時は必ずチューしてもらいますからね。忘れた訳じゃないんですよ。面向かっておねだりするのは恥ずかしかったんです。ちゃんとなぎささんがエスコートして下さいね」
そう言いつつペルシャは顔を赤らめて去っていった。
目の前に広がる大きな湖。ベルシャと出会うキッカケになった『イナバ湖』(48話)。湖には真っ黒なモノが浮いて辺りの木々が枯れかかっている。遠くには対岸が見え、海へと繋がる川とツッカイに繋がる川に挟まれた池はまるで胃袋のような形をしている。
「お前たち、何をしている」
ふたりの男が僕たちの存在に気付いたのか近寄って来た。茶色い法被を羽織った男たちは湖の周りから植物を採取していたのか手には大量の植物を持ち、中には枯れかかっている物もあった。
「湖の形を見ていました。胃袋のような面白い形をしているなと思いまして」
リリスたちは僕に話を合わせることに慣れたのかウンウンと頷いている。
「胃袋ってなんのことだ」
「胃袋とは体の中にある食べ物を分解する場所です」
つい普通に答えてしまった。しかしこの国の人間は初対面の者に対して妙に突っかかってくる気がする。
「なに!? 体の中のことが分かるのか! お前は医者か、医者なら見て欲しい者がいるんだ。なんとかお願いできないですか。薬になる植物があるから探すように言われて毎日通っているんです」
あたりに生えている草はとても薬になるとは思えない雑草ばかり。
「枯れている草ばかりで薬草らしきものはありませんね~。でも昔はキット綺麗な場所だったんでしょうね。珍しい植物の跡がたくさんあります」
さすがウタハ。ドライアド族亜種なだけあって植物には詳しい。
「き、君は植物学者か! おい、医者に植物学者に。頼む、俺たちの町に来てくれ。お嬢様を助けて欲しいんだ」
「一体何があったのじゃ、まったくユニには分からないのじゃ」
「ユニちゃん、黙って聞いてましょ。胃袋も知らない人たちの病気なんてきっとたかが知れているわ」
「「「胃袋ってなんですか」」」 ──リリス、ユニ、ウタハが同時に聞いて来た。
「ななななんと、この女性も体のことを知っているのか。おい、俺たちは運がいいぞ。男女の医者に植物学者にまで出会うとは」
「そうだな。頼む、お嬢様を診て欲しいんだ。身体が弱ってどうすることもできん。俺たちに出来ることはここから薬草だと思う草を持って帰ることくらいなんだ」
リリスが前に出て問いかけた。
「私たちでお手伝いできることはやりますけど、いったい何があったんですか? あなたたちの話しでは、お嬢様が病気になったことしか分かりません」
「すまねぇ。俺たちも良く分からないんだ。きちんと説明するから町に来てくれ」
男たちに連れられるままツッカイに案内された。川沿いを町に向かって南下していると、川にも黒い物体が下流に向かって流れている。
川辺の草も枯れかかり、植物は人の手によって荒らされた様に抜かれている。 きっとこの者たちが薬草と称して抜いたのだろう。
ツッカイの村では一体何が起こっているのだろうか
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます