112:鬼が出るか蛇が出るか【第7章完】
「なぎさ、ここはどこだか分かる?」
「ちょっと待ってね……。あれ、マップが表示されている。ここは、マーマー共和国の西。ちょうどアカリの家から海を越えた真西にある島だね」
「そういえば、家から西に大きな雲の塊がいつも見えていたけどここだったのね」
「なぎさ、それでここからどうやって戻る気だい」
「考えがあるんだ。それでアンガス、ヨクサから見た僕たちのことは胸の中だけにしまっておいてほしいんだ。それが叶えられければこの島から出すわけにいかないと思ってる」
「アンガスさん、私からもお願いします」
リリスがなぎさに合わせてお願いする。
「ハッハッハ。大丈夫だよ。こんなこと誰に説明したって信じないよ。それにかえって安心したよ。お前たちはこの世界を相手にしても勝てそうだからな。衛視として世界のバランスが崩れかかっているのは分かっている。だけど僕の立場と力じゃ何もできないんだ。なぎさたちがいてくれれば何が起きても安心だよ」
「アンガスは槍を使っていたよな? これは俺からのプレゼントだ。もらってくれ」
バックから取り出したのはドラグナイト鉱石で作った槍 (25話)。片手で受け取るアンガス。今まで使っていた武器とはあきらかに違う感触に、演舞のように振り回して使い勝手を試していた。
「これが……。古式さんにも渡したなぎさが作った武器か。うん、確かにこれは凄い。身体中にパワーが溢れてくるようだ」
「それでなぎさ、ここからどうやって帰るの?」
「実は宮殿内に僕の家へとつながる扉を作ろうと思うんだ」
「扉って、異空間ルーム(83話)のこと?」
「うん。ここから異空間ルームを使ってペルシャに協力してもらってスカイブ帝国にあるペルシャの屋敷に戻ろうと思うんだ」
「なぎささん、流石ですね。でも、1回しか使えない扉をこんな所につかっちゃっていいんですか」
「そうだね。この地を僕の力で緑の大地に変えたい。そしていつかここに住もうかと思っているよ」
「なぎささん、この島をもらっちゃうんですか」
「青魔人に勝ったらこの島にあるものなんでももらえるって言ってたからね」
「なぎさ、お風呂屋さんはどうするのじゃ」
「僕の力はこの世界には過ぎたものだと思う。だったら誰もいないこの場所に家を作って、誰かが作った扉の先でふろ屋をやらせてもらえないかなと思っているよ」
「なぎさちゃん、それじゃあお風呂屋さんは作れないわよ」
「そうなのじゃ」
「それだと、みんながなぎさに付いていくから、ここでみんなと過ごすことになるわよ」
「うーん。そうなったら、みんなにはバラバラに扉を作ってもらおうかな。どこの国でも行きたい放題だね。……もちろんみんなが好きな場所に作っていいからね」
「なぎささん、そんなことはありえません。いつかみんなで楽しいお風呂屋さんが作れたらいいですね。でも……。わたしはふたりきりでもいいんですよ」
ジリジリト間合いを詰めてくるウタハ。それを遮ろうとするユニ。みんなで笑いあってみんなで戦ってみんなで冒険する。これが僕の幸せなのかもしれない。
▽ ▽ ▽
宮殿にある1室に居空間ルームへと繋がる扉を設置した。
頭の中に妙な文字が浮かんでくる。
=====
異空間ルームへの扉が設置されました。
⇒この場所に扉を設置
屋敷を選んで設置
※なお、この異空間ルームへとつながる扉は物理的な移動は可能です。向きを変えたい場合、移動したい場合にご利用ください。
======
なんだこれ……。まるでゲームの世界じゃないか。とりあえず『この場所に扉を設置』。イメージした場所に扉がはめこまれる。
「扉が出来たのじゃー」
駆け寄ったユニが扉を開けて中に入ると何もない。本来ある小さの部屋が扉越しに見えいくつかのタルが置いてある。
「ユニ、この扉は僕じゃないと異空間ルームに繋がらないみたいだね」
ドアノブに手をかけて扉を開くなぎさ。天界で見た僕のイメージが作った内装が広がる。
「な、なぎさ。これはどうなっているんだい!」 ──慌てふためくアンガス。
「アンガス気にしない気にしない。さあみんな入って入って」
家の中はやっぱり落ち着く。僕がイメージした内装だけあって自宅以上に自宅にいる感覚。
「リリスさん、そういえばここでなぎささんと一緒に寝てましたよね! ずるいです 」 (85話)
「まぁまぁ、みんな折角家に戻って来たんだから『お風呂』に入ろう!」
屋敷の中は、20メートルほど先に2階へとつながる階段。その右側に大浴場があり、手前に自室が作られている。これはいつでも入れるように配置したもの。
階段左には巨大な食堂、奥には厨房がある。2階は長く続く廊下が2本あり、手前の廊下は用途に応じた部屋が16室。奥の廊下は家族用の大きな部屋が8室に繋がっている。さらに! 全室トイレお風呂付き。
全てのお風呂は、1階大浴場の奥に作られたタンクから給水され、緑水を入れておけば自動で溜まり。緑水の洗浄効果で掃除も不要。
難点をひとつ挙げるとすればこの巨大な家の掃除をどうするかということくらいだ。
「アンガス、この部屋を使って。たしか、和室が好きだったよね」
純和風の客室。お風呂は露天風呂を模した造りで高級感が漂う。
リリス、ユニ、ウタハ、アカリは家族用の部屋。好きな場所を選んでもらう。
「じゃあ僕は1階の自室にいるから何かあったら呼んでね」
駆け足で自室奥にある大浴場に駆け込む。汗が纏わり、砂ほこりでべとべとになった身体の『気持ち悪さ』を、至福のお風呂で『気持ち良さ』に早く書き換えたかった。
緑水でサーと体を洗うと気持ち悪さが一気に吹き飛ぶ。そのまま大浴場に浸かってライオンの口から吹き出すお湯の音を聞きながらゆったりと寄りかかって見上げる。
「全く、一人だけこんな大きなお風呂に入ってるんだから」
リリスを始めとして、ユニやウタハ……そしてアカリまで。
「あ……アカリ、裸じゃないか、いいのか」
「なぎさちゃん良いのよ。わたしも決心がついたわ。今日の戦いを通じてあなたとしか結ばれることが出来ないということに気付いたの。リリスと一緒によろしくね」
「アカリ! ユニを忘れちゃだめなのじゃ!」
「アカリさん、私だっているんですからね!」
「ちょ……、アンガスも部屋にいるんだからみんな……。そんな大胆な」
アンガスに申し訳ない気持ちが心に少しあったが、僕はみんなとの幸せな時間を噛みしめながらお風呂に入った。あまりの幸せさについ長湯になってしまうのだった。
次は、ユニの角を治すヒントを得るため『白銀の翼』の拠点があるタナリへレッツゴー……………………………………
「なぎさが意識を失いかけてるわ」
「本当なのじゃ、なぎさー大丈夫じゃか」
「なぎささん、私が膝枕して上げます~」
「なぎさちゃんは本当に長湯が出来ないわね。折角良い雰囲気になってきたっていうのに」
こうして僕は裸のまま自室に運ばれるのであった。
=====
(番外編)
(な)「1話からここまで読んでくれてありがとうございます。思えば112話まで来ました」
(リ)「わたしとなぎさの出会い」
(ユ)「ユニが入ったのじゃー」
(ウ)「そしてわたし。出会いだけならリリスさんよりも先なんですよ (2話)。なんせ裸を見られましたしね」
(ア)「なぎさちゃん、こっちに来た早々からそんなことをしていたの!」
(な)「アカリ、不可抗力だよ。まさか飛ばされた先がお風呂だとは思わなかったからね。おかげで散々な目にあったけど」
(リ)「そのおかげで私たちが出会うキッカケにもなったんだよね」
(な)「そうだね。今となっては本当に良かったと思ってるよ」
(ア)「お風呂に飛ばされて異世界の女性を覗けたことが?」
(な)「ち、違うよ。みんなと出会えたことがだよ。それに那由姉さんにも会えたからね」
(ウ)「ううう。私が一番最初に出会っていればリリスさんとなぎささんのような関係になれたのでしょうか」
(ユ)「さっき、自分で一番最初にあったと言ったのじゃ。それに一番最初に出会っていてもリリスに取られていたと思うのじゃ」
泣いて走り去るウタハ。
(な/リ/ユ/ア)「みなさん、これからもどうぞよろしくお願いします」
(ウ)急いで戻ってくる──「わたしもよろしくお願いしますー」
(ユ)「(小声)ウタハは自分のことばかりなのじゃ」
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