111:なぎさからなぎさへ

 その場に倒れているなぎさ。


 砕けた角を拾い集めるユニ。


 背中合わせに座り込んでいる那由とウタハ。


 体育座りでただ呆けているだけのアンガス。


 

 真っ青な空が靄(もや)に包まれて差し込む光が遮られていく。日食でも起きているかのように闇に包まれ、ほどなくして靄が晴れていく。


「空が……」


 立ち上がって見上げる那由。広がる青空に感嘆した。青魔人によって転移された砂漠の台地を見下ろす空は、作られたような青から所々に雲がある自然な青に変わっていた。


 ウタハは那由が立ち上がったことで後ろに倒れ大の字になって空を眺めていた。その顔はやり遂げた満足感で満たされニヤニヤとしている。



 靄が晴れたと同時に、なぎさの体は萎むように元の体型に戻り、腕に生えた角、頭に生えていた角が霧と共に風に吹かれてどこともなく消えていった。


「ぎゃー!! ユニの角が……。ユニの角が……」


 大きな叫び声に反応するようになぎさが意識を取り戻す。両手を地に突いてうつぶせになった体を起こす。 ……頭がぼやっとしている。意識を回復させようと掌底でこめかみを強く撫でる。近くでユニが叫び、ウタハが大の字で寝転んでいる良くある光景……


 そんな中、目の中に飛び込んで来た黒髪の女性…… 


「姉さん……」


 一歩……二歩……。ゆっくりと歩み、次第に小走りになって那由に近寄る。空を見上げている那由の後ろまで走って手を伸ばす。


 ゆっくりと振り返る那由。なぎさの手を両手で握り笑顔を見せる。


「おかえり」


「姉さん……。僕は一体何を……。姉さん……会いたかった」


「なぎさ、頑張ったわね。ずっと見ていたわよ。君の気持も分からなくもないけど、仲間に迷惑かけないように生きなさい。それがきっと正しい生き方よ」


「姉さん……。僕は姉さんと……」


 なぎさの口に人差し指を当てて次の句を遮る那由。


「それ以上は、ふたりに……。そしてみんなに言ってあげなさい。わたしとあなたが会うときはみんなが困ったときよ。会いたくなっても会わなくていいように努力しなさい。リリスにユニにウタハにアカリ。みんながいてなぎさがいて……」


 那由を中心にオーラのように虹色の光が膨らむ。徐々に姿が見えなくなっていく那由を行かせまいと抱きかかえるようになぎさが掴む。虹色の光は2つに分かれてなぎさの両腕に収まった。


「リリス……。アカリ……」


 静かになぎさの腕の中で眠るふたり。愛おしい……。ふたりが急に愛おしくなり強く抱きしめた。


「なぎさ……。戻って来たのね。良かった」 ……意識を取り戻したリリスは涙を流し抱き返した。


「なぎさちゃん……。!? あんた何私のことを抱いてるのよ! さっさと……。まあ、今日の所だけは許してあげるわ」


 


「ちょっと~ 何してるんですか!! わたしも混ぜて下さいよー」


「何をイチャイチャしてるのじゃー!! ユニは大変なことになってるんじゃぞー!」


 ウタハとユニが走り寄ってくる。いつもの日常、大好きな仲間。僕にとってとても大切な宝物だ……


「で、みんな一体なにが起こったの? ヨクサの森でスカイブ兵がひどいことをしていたまでは覚えてるんだけど。えっ!? ここは青魔人の砂漠……。なんでここに」


「なぎささんは覚えていないのですか?」


「たぶん、角に飲み込まれたんじゃないかということは分かるんだけど」


「そうなのじゃ! あの後は大変だったのじゃ! 死ぬかと思ったのじゃ!」


「そうよ。青魔人が来て飛ばされたりなぎさちゃんが魔神になったり」


「あら、そういえば青魔人がいないわねぇ」



「消えたよ。神薙 那由……。彼女が現れた時にな。行方不明になった神薙神社の巫女がなんでここいるのかは分からないけどな」


 アンガスが砂の中をゆっくりと斧を杖にして歩いてきた。戦いの攻防に巻き込まれたのかケガをしているようだ。


「あなたたちスカイブ兵が何をしたか分かってるんですか? おかげでなぎさが……」


「リリス、待ってくれ。アンガスお前は一体何を見たんだ」



「ああ、最初から説明してやろう」




▶ ▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶

「そっか。僕はみんなに迷惑をかけちゃったんだね」


「なぎさ、それは違う。君は何もしていないのだ。ヨクサ村での賞罰も無く、森での1件は見ていただけだ。この場所では仲間を傷つけたかもしれないが、その者たちがなぎさを訴えるとは思えない。それは俺も同じ気持ちだ」



「ユニの角はどうするのじゃー。なぎさー」


 ユニの割れた角を受け取るなぎさ。砕かれたような割れ方ではなくキレイに3つに分かれている。それをくっつけて『変質』の力で修復を試みる。


 角に紫の光が纏われるが徐々に薄くなって消えてしまった。


「うーん、直らないみたいだ……。ユニ、ユニコーン族って角が壊れた場合はどうするの?」


「ユニコーン族の村には角のお医者さんがいたのじゃ。ユニの角は強いからお医者さんにかかったことはないのじゃ」


「ユニさん、お医者さんってどこにいるんですか?」


「知らないのじゃ。ユニが村を出る切っ掛けはニコなのじゃ。ニコに連れられてメイシンガの滝で水を飲むときに角を落とした (24話)のじゃ。ニコはユニを置いて飛んでいったのじゃ」


「なぎさ、ニコってどこかで聞いたことない?」


「うーん……。確かに聞いたことがある名前のような」


「なぎさ、ニコって『白銀の翼』のメンバーじゃないか。アダマンチウムランクの冒険者は有名だからな……。確か、タナリに拠点があるんじゃなかったか」


「アンガス、それは本当なのか」


「ああ。『白銀の翼』は名前の通りあちこちに移動しているからどこにいるかは分からんが、拠点はバチ王国のタナリにあるはずだ」


「なぎさ思い出した。ニコってお風呂屋さん最初に来てくれたお客さんじゃない?」


「そうだ! 確かセレンと一緒に一回来てくれた女の子。星空のようなローブを着ていた子だ」


「そうなのじゃ、ニコなのじゃ……。セレンはユニもおふろやであったことがあるが仲間じゃったとは」


「じゃあ、その子に聞いてみればユニさんの街が分かるかもしれないんですね」


「タナリにレッツゴーなのじゃ」


「よし、タナリに行こう」

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