109:リリスとアカリの素

 アカリはリリスの元に飛び、がっちりと両手同士を掴む。ふたりの魔法力が握られた手に集まっていく。


 そんな時、かすかにふたりの指輪が光った気がした。


「リリスちゃん、わたしとあなたの指輪が光ってるわ!」


「アカリ…… これは……」


 強い光が繋がれた手を中心に大きく広がっていく。この青魔人によって作られた世界を全て飲み込んでしまったのではないかと思う程の大量の光で溢れていく。 


 ──世界を飲み込むほど膨張した光は一気に収縮する。


 収縮した光の中心にはひとりの女性が立っていた。



 ロングストレートの黒髪の女性。巫女服に身を包み手には薙刀を持った女性。


「誰なのじゃー」


「リリスさんとアカリさんはどこに言ったのですか」


……黒髪の女性は薙刀を構え、なぎさに鋭い目線を向けている。


「なぎさ。鬼に飲まれてしまったのね。ずっと見ていたわ。リリスとしてアカリとしてあなたの立ち振る舞いをずっとね」


「リリス、ウタハ。なぎさと一緒にいてくれてありがとうね。私は『神薙 那由』神薙神社の巫女よ」


「「えぇーー」」


 青魔人の姿はない。逃げたのか…… それとも先ほどの光で消滅してしまったのか…… ただ、なぎさと那由が互いにけん制するようににらみあい時を刻んでいく。


 その場に那由の姿を幻として残したまま一気になぎさへの間合いを詰める。


 金属同士が強くぶつかったような乾いた音が反響する。切りつけた薙刀をなぎさは右腕でガードした音。その腕には鉱石が纏われている。


「やっと、色の力を使わせたのじゃー」


 なぎさを纏う鉱石を蹴り上げて間合いを開く那由。着地と同時に構え直す。


「なぎさ、まだまだ甘いわね」


 なぎさの腕を纏っていた鉱石がパラパラと崩れた。


「今のは、同じ場所に10回ほど叩きつけさせてもらったわ」


「那由さん凄いですー。私には一撃にしか見えませんでしたぁ」



「まだまだ行くわよ」


 間合いを詰める那由。防ぐように『変質』の盾で自分を囲う。囲いを薙刀で叩きつけ破壊を試みるが、囲いの一部がくり抜かれその穴から飛び出してくる拳。


 那由の腹に直撃する。殴られた勢いで後ろに飛ばされ回転するように両手を付いて着地する。しかし勢いが残っているせいかそのまま後ろに滑っていく。手に持つ薙刀を地面に突き刺して勢いを殺す。


「グファ」  ──吐血する那由。


 シュパーン


 なぎさの拳に斬撃の跡が入り僅かながらも血液を噴出させる。


!! ──気配を察した那由はその場を回避する。


 ドっバーン  ──大きな火柱が那由のいた場所に噴き上げる。那由の後を追うように火柱が上がる、回避するように動き回る那由。



 カッシャーン ──限りなく透明に作られた氷の牢に誘い込まれていたことに気付かなかった。 狭まる筒状の氷の障壁が直径を短くして迫ってくる。


「潰される……」 狭まった氷の筒により薙刀を奮うことが叶わず、叩きつけてもヒビ一つ入らない。


 ガッシャーン ──ユニの武器化した弓、ウタハの弓によって放たれた矢が氷の筒を破壊した。


 その場から一気に間合いを詰めてなぎさに薙刀を突き刺す。右手でガードするなぎさ。変質の盾によって薙刀が弾かれた。 ──弾かれた反動を使って回転するように間合いをとる那由。



 那由は見逃さなかった。なぎさの指にハメられた指輪が僅かに光っていた。なぎさの僅かな心が光に呼応しているような弱い光を。



「なぎさ…… 苦しいんだね、帰ってきたいんだね。今、助けてあげるからね」



──コレクトトルネード  那由の構えられた薙刀の刃に炎と雷の塊がうなりをあげながら吸い込まれる。 


「ユニ、ウタハ、弓で援護して!」


「「わかったのじゃ / わかりました 」」


 ふたりの放つ矢に那由が氷の魔法を付与する。 矢の鏃(やじり)に見るだけで凍えそうな色をしたダイアモンドダストが起きて結晶が舞っている。


 その後を追うように一気に間合いを詰める那由。


 ユニとウタハから放たれ続ける矢は、宙を舞う氷の結晶を抜けて鏃に結晶を纏わせる。


 魔神なぎさは、右手を前に突き出し『燃料湧泉』をつかった炎の盾を作り出して氷の矢を防ぐ。炎の盾に突き刺さり続ける氷の矢。


 ピキッ


 炎の盾の一部。わずかにわずかにが凍りつく。


「ユニさん、あの凍った部分を狙いましょう」


「オッケーなのじゃ」


 わずかに凍ったほんの小さな場所に氷の矢が続けて命中する。続けて……続けて…… ユニとウタハはなぎさに戻って来てもらいたい一心で矢を撃ち続ける。


 ビキビキビキッ  ──炎の盾が1点から波紋を広げるように凍っていく。


「なぎさー戻ってきてー」


 ガッシャーン!!


 凍った炎の盾を那由の薙刀が打ち砕く。勢い衰えることなく那由の刃がなぎさの角を捉えていた。


 ガッシーーン!!


 魔神なぎさの左手によって刃が掴まれた。左手には『変質』によって鉱石で纏われている。


 パッキーン!!


 左手に纏われた鉱石と共に薙刀の刃が砕け散った。そのまま間合いをとる那由。



「な…… なぎさ…… あなた……  そう…… 分かったは。あなたのその想い確かに聞いたわ。待っててね」


「那由さんの薙刀が壊れちゃいました」


「やっぱりなぎさは強いのじゃ」


「ユニ、ウタハ。なぎさを助けるわよ。なぎさの想いが聞こえたわ。みんな協力してね」

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