108:魔神なぎさ

 暗い…… 暗い…… 一体ここはどこなんだ……


 体育座りで丸まっているなぎさ。辺りは闇で包まれ一筋の光も射さない暗黒の地。


「ぼく…… 人間とは…… 魔人とは…… 僕は何のために旅をしているんだ……」

~~~~~~~~~



 魔神となったなぎさの周りには砂嵐が吹き上げ、砂漠の砂を巻き上げる。風から漏れた砂が四方八方に飛び散り、リリス、ユニ、ウタハ、アカリやアンガスの体に纏わりつく。


「なぎさ! 一体どうしたんだ。スカイブ兵たちのことは謝る。謝るから落ち着いてくれ」


『お前の言うことなど届きまセーン。自分たちの行いを恥じながら死んでいくのデース』


 砂嵐が晴れてくるとともに徐々に姿を現すなぎさ。身体は3メートルまで膨れ上がり、腕の所々に突き出た角、頭からは長さの違う歪曲した角が2本飛び出している。身体は筋肉に支配され心は鬼に支配されたような出で立ち。

 


「ウォーーーー!! 人間たちめ…… 人の心を失った人間たちめ……」


『お前たちにチャンスをやるデース。なぎさを元に戻すには大きな大きな殻に閉じこもった心を引っ張り出せばいいのデース。そのうちなぎさの心は鬼に飲み込まれて完全に消えてしまうのデース』



~~~~~~

 なんだ…… 僕は何か大事なことを忘れている気がする。思い出せない…… 誰か僕の心を温かくしてくれるなにか…… 違う、違うんだ。僕は……僕は……

~~~~~~



「なぎさー。帰ってきてー」

「なぎさー、帰ってくるのじゃー」

「なぎささん! いつもの笑顔を見せて下さいー」

「なぎさちゃん、とっとと殻を破って出てきなさい」


 魔神となったなぎさの一振りで砂嵐を巻き起こしアンガスを吹き飛ばす。砂嵐によるかまいたちに裂かれた頑丈な鎧は、糸で編まれていたかのようにほぐれていく。


 ユニが角を盾化してアンガスの前に立ち、襲ってくる風を防いで守る。徐々に勢いを増す風圧に飛ばされそうになるが、巨大化して盾を地面に突き刺し必死に防いでいた。


「なぎさちゃん、おいたが過ぎるわよ。ウタハちゃん、さっさと歌いなさい。こうなったらガツンとやって目を覚まさせてやりましょう」


「アカリさん、そうですね。なぎささんの目を覚まさせて連れ戻しましょう。鬼なんかに負けるはずがないです」


 ♪私の唄を聴いて。私の愛する仲間たちよ。この言霊を纏いて常なる癒やしを与えたまえ…… ~リジェンダラリ~♪


 ウタハの歌によってパーティーが強化される。なぎさのいない戦闘。なぎさを連れ戻すために必死に立ち向かう。


「リリス行くわよ」   ──「ええ。アカリいつでもいいわ」



「シャイニング!!」  ──「コレクトトルネード」


 光の光球を包むように炎と氷が渦を巻いてなぎさに向かう。巨大なエネルギーが空を裂き砂漠の砂を吸い込んで力を増していく。


 バシュン!


 強力な魔法をパンチ一発で吹き飛ばすなぎさ。粉砕された魔法は四方八方に飛び散り、砂漠にいくつもの大穴が開く。


 魔法の陰から丸薬を飲んだユニが飛び出し、なぎさの拳を蹴って勢いをつけたまま手にした剣で角に切りつけた。


 カッキーン!   



 ズッサー ──弾かれたのはユニだった。剣は角に戻り回転しながら飛ばされるユニ。そのまま勢いを殺しながら砂の上を肩で滑る。


「う~ 堅いのじゃ~ 強いのじゃ~」


 仰向けになったまま顔だけなぎさの方を向けて悔しがるユニ。


「さすがになぎささんですね。強すぎますぅ」


 何故かウタハは嬉しそうだった。


「ウタハ、ニコニコしてないで次がくるわよ」


 手を振り払ったなぎさの手から、風の刃がウタハを襲う。


「これを食べるのじゃー」


 ウタハに投げつけられたのはユニの丸薬。勢いでそのまま口に放り込む!


 シャキーン!!  ──ウタハの髪が天を突くように突っ立ち緑の光を帯びる。


「えーいですー」


 髪の毛を矢にして、風の刃に打ちつける。 ウタハの緑の矢は切り裂く風を粉砕しなぎさに直撃。それぞれが爆発を巻き起こす。


『なかなかヤリマスネー。でも……』


 爆発によって巻き上がった煙が晴れる……が、 無傷。傷どころか服に汚れ一つついていない。


「リリス、行くよ」


 アカリの薙刀、リリスのデモンズアクスで飛び掛かる。


 ♪私の唄を聴いて。私の愛する仲間たちよ。この言霊を纏いて大いなる力を与えたまえ……。オフィンレンカ(攻撃力アップ)


 アカリとリリスの周りに赤いオーラが纏わる。


「「えぇぇい」」


 ガッキーン!


 なぎさの突き出した手の平で攻撃を受け止める。そのまま振り払うなぎさによって、アカリとリリスが砂の中に突き刺さる。


「なぎさちゃんって、こんなに強かったのね……。どうしようかしら」


『一つだけ教えておいて上げまーす。角の力はあくまで理性を解放させる力しかありまセーン。パワーアップは全くしていないのデスよー』


「なんなのじゃー。なぎさがこんなに強いって聞いていないのじゃー」


「みんな、なぎさは全然力を使ってないと思うの。だって色の力をまったく使っていないもの」


「みなさん、困りましたねぇ……。えいっ」


 なぎさの後ろから太くて長いツタが一本伸びてくる。そのままなぎさにペシッと攻撃を与えたかと思うと、包むように伸び出して拘束した。


「ウタハ、やるのじゃ──」  ──ツタの隙間を縫うように水が溢れ出す。そのまま蒸気となって中空に登り、その場でなぎさを形成する。


「なぎさちゃんは、そんなことも出来たのー?」



……体育座りをして力なく呆けるように見ている事しかできないアンガス。戦いを見て自分の力のなさを実感していた。


「リリスちゃん、ふたりで魔法力を高めましょう。ウタハは魔法力アップをお願い」


 アカリはリリスの元に飛び、がっちりとリリスの両手を掴む。ふたりの魔法力が握られた手に集まっていく。


 そんな時、かすかにふたりの指輪が光った気がした。

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