107:なぎさの意識
リリスと共にヨクサ東にある森の結界に向かう。ユニやウタハ、アカリなどを待たせているので足早に帰った。
「リリス、ヨクサでの出来事は秘密にしておいて欲しいんだ。とはいっても、僕が鬼の角に支配されそうになった所だけでいいんだけどね」
「なぎさ…… わたしはなぎさが言いたくないならそれでもいいけど。秘密にしてしまっていいの?」
「考えたんだけど、みんなにいらない心配をかけたくないんだ。それに、怒らないようにしないことを説明すると気を遣わせてしまいそうで…… あぶなくなったらリリス、協力してね」
「もちろん良いけど……」 ──「なぎさ、あれを見て」
リリスが指さす方向に黒煙があがっている。最初は一本の細い煙が徐々に広がり何本にも増えていく。
「リリス、行こう」
リリスの手を引き煙の方向に走った。ヨクサがある方向に一体何が起きたのか。
木々を避け、草をなぎ倒し黒煙に向かって進む。
「見えた」
そこで僕たちが見たモノは…… ヨクサに捕らわれていた魔人とその家族であろうか。救出に来た魔人たちを残酷にも襲うスカイブ兵。魔人たちは座り込み輪になって怯え虐待を受けている。兵士たちは殴り……蹴り…… その顔こそが人間ではない狂気の顔をしていた。
座り込む魔人の中から子供を取り上げ足を掴みぶらさげてはニヤニヤしながら笑っている。
「ひどい……」
リリスは呆気にとられているようにじっと見ている。僕が腕を掴み抑えているが、この手を離すと飛び出しそうな勢いだ。
「なぎさ」「なぎささん」「なぎさちゃん」
大きく上空に巻き上がる黒煙の量に何かを察知したのか、ユニやウタハ、アカリまでもが集まって来た。
「これはいくらなんでも酷いのじゃ……」
体力が弱っているのか魔人は兵士たちになすすべもなく殴られる。
「こんな…… これじゃあ、人間の方が魔人だと思われても仕方ないです」
女子供は関係ない。魔人を取り囲み己の欲望を満たすように暴力を奮う人間。
「一体…… いくら魔人といっても全く手を出していないのに……」
それぞれがスカイブ兵士たちの素行を見て怒り、悲しみの感情を抱いていた。
「う……うぅ。手が……手が熱い」
その場にうずくまるように右手を強く握り、左手で開かないように抑え込む。右手の中にある角が激しく熱を帯びて怒り狂うように動いて飛び出そうとしている。
「なぎさ」
リリスは慌ててなぎさに飛び乗って僕の右手を抑えつける。ユニたちは状況が若らっず、スカイブ兵士たちの素行と僕を交互に見ていた。
「みんな…… なぎさの怒りで馬頭鬼から渡された角が覚醒しそうなのよ」
慌てて、ユニ・ウタハ・アカリも僕の手を想いっきり掴んで開かないように押さえつける。
「お前たち!! 何をしているんだ!!」
その場にアンガスが駆け付けた。魔人たちをなぶる兵士たちを咎め制止させる。しかし、スカイブ兵に取り憑いた狂気が正気を失わせ、アンガスに襲い掛かる。複数名の兵士たちの猛攻に耐えながら正気に戻させようと必死に声をかけている。
そんな地獄絵図のこの場所を大きな煙が巻き上がり全てを包み込んだ。視界は閉ざされると兵士たちは正気に戻ったのか、未知への恐怖から叫び声が聞こえる。僕はそんな状況を何となく肌で感じていたが、角を抑え込むのに必死だった。
煙が晴れると青魔人の住処である砂漠の広がる地であった。僕は角の力に抗い必死になって抑え込む。リリス、ユニ、ウタハ、アカリも右手を抑えて角の覚醒を阻止している。
アンガスだけは何が起こったのか理解できず、辺りを見回していた。
「おい、兵士は…… 魔人は…… 一体ここはどこなんだ」
『ようこそおいで下さいましたご主人様。あなた様は私どもについていただけるのですね』
浮かんでいるランプの中から煙が噴き出し、青魔人の体を作り上げる。そのままなぎさにお辞儀をする。
「青魔人! なぎさを魔人の味方になんかさせない! 私たちが食い止めて見せる」
『何を言うデスかー。人間たちの素行を見たでしょ。魔人に害をなした人間は処分させてもらいマシたー』
「なんだと! スカイブの兵士たちは全滅したというのか!」
アンガスは両膝をついて拳を握りしめ地面を叩いている。数滴の雫が顔からこぼれおちて地面を濡らす。
『あらぁ。まだ人間が残っていましたねぇ。さっさとあなたも処分されなサーイ』
「待ってくれ! 兵士たちとなぎさは一体どうなってしまったんだ! ここは一体何なのだ」
『いいデショー。兵士たちは言った通り処分しました。魔人たちの住処に送り込んだので自分たちがしたことをやられているデショー。アナタがどうしてここにきたのか分かりまセーン。でも、あなたのおかげでなぎさが人間に失望しまシター』
「どういうことだ…… なぎさ! お前は一体何を苦しがっているんだ」
なぎさに走り寄るアンガス。それを止めるようにリリスが立ちふさがる。
「あなたたちスカイブ兵は人間としての良心が無いんですか! ヨクサ村で人間の悪い部分を見せられ、正しくあるべき兵隊にまで……」
「待ってくれ、あれは魔人にあてられて正気を失ったんじゃないのか」
『違いマース。逆ですネー。魔人をなぶったことで自分たちの力に魅了されてしまったのデース。誰にも負けない自信と誇りが心の中にある狂気に支配されたのでショー』
「「「キャーー」」」 ──ユニ、ウタハ、アカリが吹き飛ばされた。
『魔神の王に匹敵する魔神なぎさの誕生デース』
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