106:激しくも静かな再会
「君は、なぎさ……。通報を受けて来てみれば…… なんでこんなところにいるんだい」
予想外の再会であった。
立ち入り禁止区域でトラブルを聞きつけた村民が、スカイブ帝国を巡視している隊に声を駆け協力を依頼されたらしい。
「なぎさ、何をやっているんだい。この村を破壊する者が居るという通報を聞いて駆けつけてみれば君だなんて」
「アンガス…… 確か蒔田先生や竜崎と一緒にパーティーを組んでいた……」
「そんなことより、この惨状は何なんだいって聞いているんだよ! 衛視としていくら友達だからって見逃すことは出来ないよ!」
「私はリリス、なぎさの婚約者です。わたしたちは騙されたんです。笛を譲って欲しいと言われたから付いていったら命を狙われて…… 命からがら逃げだしてきたんです!」
「おい、それは本当の事なのか」
アンガスが村人に声をかける。村人は「そんなことはない、こいつらにペットの秘密を教えろと襲われたんだ」と答えるが明らかに動揺している。
アンガスが首で指示をすると、衛視たちが建物の中に雪崩れ込む。数十分すると中から村長を始め男たちが連れ出されてきた。
「シュクラ村長、この惨状は一体どういう事かな」
衛視の一言で、村長がびくっとするも、先ほどの村民と口をそろえたように答える。
「こいつらがこの村に乗り込んで、ペットの秘密を教えろと暴力を振るわれたんだ」
連れ出された村人たちも、村長に合わせるように相槌をとる。この状態は僕たちにとってピンチなのかもしれない。罰…… 罪…… 領主の裁き…… 島流しが思い出される。 僕は捕まってもなんとかリリスだけは逃がしたいと思っていた。
「アンガス…… 信じてはもらえないか。僕たちは何もしていない。騙されただけなんだ…… この子だけは家に帰してもらえないだろうか」
「なぎさ! 私たちは悪い事は何もしていないのよ。わたしはなぎさについていくわ」
「なぎさとその女性よ、それと村長と村民よ。私たちはあくまで悪しきものを裁くためのスカイブ帝国衛視である。これから、この村にいる全ての者の罪を確認する。お前たち、出入り口を塞げ」
アンガスの一言でヨクサの出入り口が封鎖される。皮肉なことに村を囲うように立派に作られた壁が逃げ道を塞いでいた。村民たちの顔に動揺が広がる。
僕たちと村民は中央の広場に集められ、ミミアボックス(3話)3台を前に整列させられた。
最初に、僕、リリス、村長の罪の確認がされた。
『イワヤ ナギサ LV.1 賞罰:帝国シルバー許可証、グレイター迷宮入場資格、ヨハマ連邦Aランク許可証』
『リリス・シフォン・サッキー LV.6 賞罰:帝国シルバー許可証、グレイター迷宮入場資格、ヨハマ連邦Aランク許可証』
『シュクラ・ヨクサ LV.3 賞罰:ヨクサ村村長、詐欺、殺人、強盗、強姦…………』
アンガスは首を振りシュクラをひっ捕らえるようにシュクラに指さす。シュクラは「誤解だー」「それが間違っているんだー」と騒いでいたがそのまま連行された。
「お前たち、後の事は頼んだぞ!」 ──『ハッ(衛視一同)』
アンガスに連れられ公民館のような広い建物に案内された。扉の中は12畳ほどの広さがあり畳が敷かれいぐさの良い香りが漂ってくる。
「まあ、座れや。隣の女性もな」
「ああ」
アンガスが座りその向かいに腰を下ろす。リリスは僕の腕を組むようにくっつき隣に座った。
「なぎさたち仲が良いんだな」
「なぎさとは運命の指輪で結ばれているんですよ。いつかは…… いつでも結婚したいんですけどね」
リリスはアンガスに安心したのか落ち着いた表情をしている。
「アンガスはスカイブ帝国の衛視になっていたのか」
「ああ、蒔田先生と竜崎がこの国を出たからな(65話)。グレイター迷宮は聖たちに任せて俺と天城は衛視に転属だよ」
「蒔田と竜崎ならヨハマで会ったぞ」
「ああ、この国に転移した者はバラバラになったよ。タマサイ、スカイブ、バチの三大大国と言われていたが、ここに来てヨハマを加えた四大大国になるまで成長したからな。 むしろ、ヨハマが一番力を持っているかもしれん」
「竜崎も先生、アールドやミルドも頑張ってるんだな」
「流石ヨハマAランクを持っているだけあるな。ヨハマは王族からしかAランクは付与できないんだよ」
「じゃあ、バチを除く3国にクラスメートが散っているって訳か」
「いや、バチには古式と伊和凪 沙耶がいる」
「えー。古式って聖たちのチームにいた凛ちゃんだよね…… それに伊和凪ってそもそも温泉旅行に参加していない……」
「お前たち、グレーター迷宮から姿を消しただろ。あの後からなんだよ古式が変わったのは。『なぎさにもらった』と言って一本の刀を肌身離さず持つようになってな。その刀を持った古式には聖たちパーティーが束になってかかってもかなわなくなったんだ。そこにどこからともなく現れた伊和凪が「なぎさを探してる」って言ってたんだが、そのうちふたりで出ていってしまったよ」
「いわなぎ……さや…… なぎさ、わたしその人と会ったことがあるわ(62話)。ヨハマにアールドを迎えに行くときにメイシンガの近くで魔獣と戦ってた……」
「アンガス、それじゃあ誰が古式の穴を埋めたんだ?」
「ああ、まだ分かんない。クラスメートの誰かだとは思うが、今呼び戻しているって話だ」
「そうか…… じゃあそろそろ仲間の元に戻っていいかな。心配していると思うんだ」
シャキーン ──ガチーン
アンガスが立ち膝になったかと思うと、鞘に手をかけ剣を抜いて切りつけてきた。思わず『変質』の盾を使って受け止めてしまった。
「アンガス、いきなりなにするんだよ」
リリスは戦闘態勢をとっている。両手に纏われた魔法がアンガスをロックオンしている。
「すまん、なぎさ。君も魔法を解いてもらっていいかな。 君たちの行動、ミミアボックスの賞罰は、レベル1や6でつくものじゃないんだ。今の不意打ちならこの国で1番と呼ばれている聖だって倒せるだろう。それを難なく受け止めたお前は…… まあ、いい。今日のことはお互い内密にな。俺も不意打ちなんて知られたら首ものだよ」
「アンガス……」
「さぁて、この村の再建は忙しくなるぞー。ほぼ全ての村民が捕まっただろうからなぁ。そうそう、俺は最初から分かっていたよ。お前たちが騙されたことをな」
「じゃあ、なんで……」
「キチンとした根拠を示さなくちゃならんだろ。なぎさは知っているだろうけど、俺は国籍が違うせいで仲間外れにされていたからな。様子を窺っている内に人の目を見ればなんとなく分かるんだ。あの時は、お前や聖たちのグループに入れたことで楽しい学生生活を送れたことに感謝しているよ」
アンガスは立ち上がり、建物から出ていった。
「リリス、僕たちも一旦みんなの所へ帰ろう」
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