105:ヨクサ村の悪事
リリスとの間にあるテーブルを潰すように上から鉄格子が落ちてきた。鉄格子を中央に僕とリリスが分断される。
「ようこそいらっしゃいました。ヨクサ村長のシュクラと申します。以後はないかもしれませんがよろしくお願いします」
リリスのいる部屋に数名の男たちが剣を持って入ってくる。正面の壁の一部がスライドし、鉄格子越しに村長と思われる男が一段高いところで座っている。
「ようこそヨクサへ。早速だが、君の持っている笛を譲ってもらえんかね。素直に譲ってくれれば女だけはここで生かしておいてやるよ。お前は生命力を活用してヨクサのために使わせてもらおう」
レベル的にも10~15程度なので危険は感じないが、逆にリリスが怒っているので男どもの方が心配だ。こんな状況のように優位に立っていると思っている相手がの方が情報は引き出しやすい。
「リリスちょっと待っててね……」リリスがゆっくりと頷いたのを見て村長に問いかける。
「村長さん、笛を差し上げるわけにはいきませんが、この命が取られてしまうならこの村で何が起きているのかせめて教えてもらう事は出来ませんか」
「ハーハッハ。恐怖が強すぎて震えることも恐れることも出来ないか。良かろう冥途の土産に教えてやろう。 ただし、お前を冥途に送る時にメイドは付き添えんがなぁ」
「…………」
村長は語りだした。この村は元々貧しい村だったが、代々村長を中心に森で動物を狩り田畑を耕し自給自足の生活と、スカイブ帝国で素材を売ったお金で生計をたててきた。しかし、過去の村長が異世界の少女を見返りにある物を手に入れたことで裕福な生活になったようだ。
『テイマーの笛』。魔獣や獣を手なずけ意のままに操ることが出来るアーティファクト。その笛を吹くためには魔力か生命力を要し、注文に合わせた生き物を不人気な生き物の生命力を使って吹かせることでペット化し売り出さす。
笛に蓄積された魔力は莫大なものだが、何十年も続けているうちに魔力は減り、森の動物たちの生命力も使い果たした。人を攫(さら)って生命力を確保してきたが、それも難しくなって困っていたところに魔力の満たされた笛が飛び込んで来たという話だった。
「そんなことが許されると思っているのですか?」
「そんなことは知らん。村が裕福になるのならなぁ。最近は魔人も手なずけられることが分かって、生命力が足りんのじゃ。森にたまたまあった魔人の住処のおかげで大儲けじゃわい。子供を産ませて手なずければ永遠にこの村も安泰なんだよ!。子供と言ってもさすが魔人、普通の兵士じゃ太刀打ちできんから高く売れるんじゃよ」
「その魔人はあなたがたになにかしたんですか」 ──心の中に燻(くすb)る何かが生まれていた。
「魔人だからな。何かするに決まっている! 魔人の平和なんか知らん。笛を吹かれた時の顔は傑作じゃったわい」
「お前たちはそれでも人の心を持った人間か」 ──気持ちが爆発しそうだ。
「そうだ、人間様だぞ! 魔人を退治してやった英雄シュクラ様だぞ」
怒りが最高潮に達し、周りが見えなくなってしまった。リリスとの間にある鉄格子を『変質』の力で素材化し穴を空けてリリスを抱きかかえる。そのまま鉄の扉も素材化してその場を立ち去ろうとする。呆気に取られている村人を尻目に部屋を出ようとすると、我にかえったのか切りかかって来た。
バチッ ──リリスの雷魔法によってマヒさせて動きを止める。村人たちを閉じ込めるように中からは開かない鉄格子を作り、廊下に並んでいる鉄格子を素材化しながら出口に向かう。動物や魔獣は怯えている。
「リリス。この動物たちは元には戻せないの?」
「なぎさ、もう少し笑顔になって。動物たちも怯えちゃうわよ。生き物の心を抑え込んでいる力は薄皮1枚程度みたいだから、夢魔の力で破壊できるかもね」
どうやら怒りのオーラが溢れ出していたようだ。なんとか心を抑え込もうとする。
「あ、熱い」
右手から強い怒りを増幅させるようなエネルギーが全身を駆け巡り、怒りを抑えるのを拒否させる。
「なぎさ!」
リリスに強く抱きしめられる。リリスの暖かな温もりが僕の怒りの心を溶かすように気持ちを静めてくれる。
「リリス……ありがとう。なんとか治まったよ」
右手の平の不思議な感覚。何気なく手の平を見ると、鬼の角が浮かび上がっているように見える。
「なぎさ、これ……」
「うん。もしかしたら馬頭鬼から渡された角(80話)かもしれないね。大丈夫だよ。リリスのおかげで自分を取り戻すことが出来たよ。ありがとう」
リリスは満面な笑顔を見せてくれる。しかし、どこかに不安を感じていることが分かる。僕心の不安もきっと見通されているのだろう。
動物たちを救出し、立ち入り禁止区域である建物を出た。そこには数十人の兵士たちが待ち構えていた。 中央で指揮を執っているのは見知った人物……アンガス(65話)であった。
「君は、なぎさ……。通報を受けて来てみれば…… なんでこんなところにいるんだい」
予想外の再会であった。
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