104:ペットの村ヨクサ

「ペットの村ヨクサへようこそ」


 愛想のいい男が出迎えてくれた。立派な門が立てられ動物たちの装飾が施された頑丈な壁が村を覆っている。立派な建物が並び、大勢の人が行きかっているのが見える。


 村はキチンと道が整備され、区分けもしっかりされている。西には住宅が立ち並び、北には大きな建物と宿屋や酒場などの商店が軒を連ねている。僕たちが転送された東には立派な建物が建ちその奥には森が見える。建物の扉は頑丈で分厚そうな鉄で作られているようで立ち入り禁止区画と書かれてた。 ここまで奇麗に整備されている村はそうそうないかもしれない。


「すいません。たまたまこの村に立ち寄ったのですが、この村はどんなところなのですか」


 愛想のいい男に声をかけると、にこやかに答えてくれた。


「この村は初めてですか。ここはペットが欲しい方にお譲りする村なんです。北に見える大きな建物で販売しているので良ければ見ていってください。この村独自の方法で魔獣などペットにすることが難しい野生の動物もおります」


「ペットですか……。わたしは旅商人をしています。今までペットを飼っている人を見かけたことが無いのですが、人気があるんですか?」


「ええ。それなら是非商材にしてはいかがでしょうか。商人の中には買い付けをしている人もおりますよ。しかし生き物ですから生き死にの関係で遠慮する人も多いのです。まあ、ここで話をしているよりは是非、見ていってください」


 奥へと伸びる立派な道を抜けて中央の大きな建物に向かう。建物には『ペット販売会場』とデカデカと看板が掛けられている。入口にはふたりの男が出入りする客を監視するように見回していた。



「なぎさー」


 入口の方からリリスが声をあげて駆け寄り、手に持った笛と手紙を渡された。


「リリス。どうしたの?」


「ええ。小屋の中で見つけたのでなぎさに見てもらおうと思って持ってきたの」


 リリスに渡された手紙に目を通した。


==(手紙)==

 この手紙を読む者よ。この手紙が読まれた時にはヨクサは悪に染まっているだろう。きみの力で村を救ってはもらえないだろうか。

 一緒に置いてある笛はお礼に差し上げよう。生命力を用いて魔獣や獣を手なずけるモノであり使い方によっては身を護ることもできるアーティファクトである。


 紫の水で洗い清めることで君は力を知るだろう

= = = = =


 一体この手紙を書いたのは誰だろう。紫水のことを知っている存在とは一体……手の上に置かれている笛に紫水を少し出して洗ってみる。


…………


 何も起こらない……


「おいお前らそこで何をしている」


 建物の前でやり取りをしている僕とリリスを不審に思ったのか、怒号を投げかけられた。


「すいません、ちょっと話し込んでしまって…… すぐにどきますね」


 手紙と笛をポケットにしまう。しまうところを見ていた村人が驚いたような顔をしている。


「おっ おい」


「あ、ああ」


 村人が何やらふたりでこそこそ話をしている。ひとりが駆け足で立ち去ったり、もうひとりが話しかけてきた。


「あなたが持っていた笛はどこで手に入れたのですか? よければ見せて欲しいのですが」


「いえ、ちょっと友人に預かった大切な物ですし、旅商人としてお客さんじゃないひととのやりとりは控えているんですよ」


「そうですか、それならその笛を買い取りたいのですが、おいくらでしょうか」


 手紙の内容と村人の対応に不信感が募る。一体この村には何かがあるのだろうか…… しかし、この状況でおいそれと村に渡すわけにはいかない。


「預かりものですので譲るわけにはいかないんですよ。わたしは預かりものなので笛について全く分からないのですが、ご存じなのですか?」


「え……と、ま、まあ、そのご友人にも損はさせない程の支払いは致します。ま、まあ、こちらにどうぞ」


 村人にリリスと共に無理やり案内される。連れられた先は、村の東口にある立ち入り禁止区画。道中には監視の者が多く物々しい雰囲気が出ている。大きく思い鉄格子を開けるて中に連れられる。中は村にあるとは思えない立派な作りとなっており、地下へと続く階段が伸びている。


「素晴らしい造りですね。村の中にこんなものがあるなんて…… どこかの城の宝物庫にでも続いていそうですね」


無言で歩いていく村人についていく。リリスは僕の腕に捕まりながら後をついてくる。


「なぎさ…… この建物はなんか嫌だわ。生命力が飛び回っているようで……」

 

 通路の両端には鉄格子が作られ、様々な動物や魔物が捕らえられている。この生き物を手なずけてペットにしているのだろうか…… それにしても、育てているというよりは作っていると言った雰囲気だろうか。


「こちらになります」


 突き当りにある階段を上り鉄格子の扉を開けて中に通される。


「村長が直ぐ来ますのでこちらでお待ちください」


 僕とリリスは6畳程の鉄で囲まれた部屋にあるテーブルに対面で座らされた。



ガッシャーン


 リリスとの間にあるテーブルを潰すように上から鉄格子が落ちてきた。部屋の中に鉄格子を中央に僕とリリスが分断される。


「ようこそいらっしゃいました。ヨクサ村長のシュクラと申します。以後はないかもしれませんがよろしくお願いします」

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